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メタボロミクスインサイト

成長ホルモンの遺伝子組換えによる肝臓での代謝への効果をメタボロミクスによって解明

2013年06月12日
生物学分野
背景
単細胞生物は細胞自体を大きくすることで、多細胞生物は細胞自体を大きくするか、あるいは細胞数を増やすことでサイズを大きくすることができます。

多細胞生物では、いずれの場合も細胞構成成分の生合成の活性化、そのためのエネルギーの供給が必須となっています。また、大きくしたサイズを維持するためのエネルギーも必要となります。

このように、単細胞生物でも多細胞生物でも、サイズを大きくするためにはエネルギーを大量に必要とし、このエネルギー需要を満たすために代謝経路を活性化しなければなりません。

成長ホルモンは、多細胞生物である哺乳類や魚類の成長を促進して、個体のサイズを大きくすることが知られており、成長ホルモンと代謝の活性化調節の関連性の解析は大変興味深いテーマです。

今回は、成長ホルモン遺伝子を過剰発現させたアマゴを用いて、成長ホルモンにより肝臓の代謝がどのように変化したかを解析して新しい知見を導き出した論文[1]を紹介します。
概要
哺乳類では、成長ホルモン遺伝子を過剰発現しても個体のサイズが変わらない場合や、大きくなっても2倍程度であるのに対して、魚類では10倍から40倍まで大きくなることが知られており、成長ホルモンの役割の解明において、魚類はよい研究モデルであると考えられます。

本論文の著者のグループではこれまで、魚類において、成長ホルモンの投与した個体や、成長ホルモン遺伝子を過剰発現した個体を用いて、遺伝子発現レベル、タンパク質レベル、表現型レベルでどのような変化があるかについて調べてきました。

その結果、成長ホルモンにより肝臓の脂肪酸代謝に関わる遺伝子やタンパク質の発現が変動していることを明らかにし、脂肪酸代謝が制御を受けているだろうと報告しています[2,3]。

本論文では、野生型(+/+:♀/♂)アマゴ、ヘテロで成長ホルモン遺伝子を過剰発現させた(Tg/+)アマゴ、ホモで成長ホルモン遺伝子を過剰発現させた(Tg/Tg)アマゴの肝臓の代謝変動に関して、代謝物質レベルと遺伝子発現レベルで調べています。代謝物質の解析では、GCで脂肪酸を、HMT受託解析のCE-MSで脂肪酸の分解産物を定量しています。

(Tg/Tg)アマゴの肝臓では、他の(Tg/+)アマゴ、(+/+)アマゴと比較して、脂肪酸のベータ酸化で分解されやすい短鎖飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸が減少し、その分解産物であるケトン体は増加していました。血清では、グルコースやトリアシルグリセロールが減少していました。

一方遺伝子発現解析では、脂肪酸のベータ酸化に関わる分解酵素遺伝子の発現が誘導され、脂肪酸合成関連の遺伝子発現は抑制されていました。

これらの結果は、(Tg/Tg)アマゴでは成長促進のためのエネルギーが不足し、そのエネルギーを得るために脂肪酸の分解が促進されていることを示しています。

また、(Tg/Tg)アマゴの肝臓では、脂肪酸不飽和化酵素の遺伝子発現が抑制されているにもかかわらず、多価不飽和脂肪酸が増加し、遺伝子発現解析では炎症で誘導される遺伝子の発現が認められました。

これらの結果により、(Tg/Tg)アマゴでは、肝臓で炎症反応が見られ、この反応を抑制するために、脂肪酸全体としては分解されているにもかかわらず、多価不飽和脂肪酸を特異的に増加するように代謝調節が行われたのではないかと考えられます。
まとめ
代謝物質を測ることによって、肝臓の代謝において成長ホルモンによる効果がより詳細に明らかとなりました。遺伝子発現の変化だけでも、脂肪酸の分解が促進されていることは示唆されていましたが、実際に代謝物質の量を調べることで、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸の挙動の違い、この違いをもたらす原因のメカニズムに迫る考察が可能になっています。本論文で得られた知見が、将来魚の養殖に活かされる可能性は十分に考えられます。

遺伝子発現レベルで代謝がダイナミックに変わっていると予測できる場合、実際にターゲットとなる代謝経路上の代謝中間体のレベルの変動を調べることで、より詳細な知見を得ることができるという実例です。本論文を読むことで、メタボロミクスを有効に使う方法の一例が研究者の頭の中にインストールされるはずです。

[1]Homozygous and heterozygous GH transgenesis alters fatty acid composition and content in the liver of Amago salmon (Oncorhynchus masou ishikawae).
Sugiyama M, Takenaga F, Kitani Y, Yamamoto G, Okamoto H, Masaoka T, Araki K, Nagoya H, Mori T. Biol Open, 1(10): 1035-42, 2012
PubMed Journal Website
[2]Changes in hepatic gene expression related to innate immunity, growth and iron metabolism in GH-transgenic amago salmon (Oncorhynchus masou) by cDNA subtraction and microarray analysis, and serum lysozyme activity.
Mori T, Hiraka I, Kurata Y, Kawachi H, Mano N, Devlin RH, Nagoya H, Araki K. Gen Comp Endocrinol., 151(1): 42-54, 2007
PubMed Journal Website
[3]Effects of growth hormone on the salmon pituitary proteome.
Kurata Y, Kimura Y, Yamanaka Y, Ishikawa A, Okamoto H, Masaoka T, Nagoya H, Araki K, Moriyama S, Hirano H, Mori T. J Proteomics., 75(6): 1718-31, 2012
PubMed Journal Website
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