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CONTENTS

HMTの基盤技術

  • メタボロミクスとは
  • CE-MS – キャピラリー電気泳動
    -質量分析法
  • CE – キャピラリー電気泳動
  • CE-MSによる構造異性体の分離
生体内には核酸(DNA)やタンパク質のほかに、糖、有機酸、アミノ酸などの低分子が存在しています。これらの物質の多くは、酵素などの代謝活動によって作り出された代謝物質(メタボライト)です。 細胞の働きを理解しようとするとき、DNA 配列の網羅的解析(ゲノミクス)やタンパク質の網羅的解析(プロテオミクス)に加えて、代謝物質の網羅的解析(メタボロミクス)が重要となります。メタボロミクスとは「代謝物質の種類や濃度を網羅的に分析・解析する手法」のことです。 外部からの刺激(温度や光など環境の変化や薬物摂取、食事など)や疾病などにより代謝が動くと、血液、尿、組織、細胞、液胞などの中に存在する代謝物質の種類や濃度に変化が起こります。その変化を分析することにより、バイオマーカーの探索や代謝の生化学的仮説立案・検証が可能となります。 メタボロミクスの利点は、
  • 対象物質数が少ない - ヒトで約22,000とも言われる遺伝子に比べ、代謝物質は約3,000(ヒューマン・メタボローム・データベースより)と対象が少ないため解析が容易である
  • 低分子である – 個々の代謝物質はこれまでにも生化学の分野で長年扱われてきており、多くの知識が蓄積している
  • 表現型に近い – ロバストネスによりゲノムレベルでの変動が表現型にまで現れないこともあるが、代謝物質は表現型に最も近いため表現型での変化が観察しやすい
  • 種を超えてゲノム情報や分析法を共有できるので、種ごとに異なるゲノム情報や分析法を用意する必要がない
  • 代謝ネットワークは熱力学と量論により厳格に規律されており、シグナルネットワークなどと比べて理解が容易である などが挙げられます。
メタボロミクスは、システムの「構造」より「状態」を反映し、表現系に近い変化のスクリ ーニングに適しています。そのため、
  • 全身的な疾患や代謝の変動を追う研究
  • 明確な現象に伴う「ファジー」な変化を読み取る研究
  • 表現型が不明な現象の「定義づけ」のための研究
に適している一方、局所的な代謝異常・シグナル伝達を見るような研究には適していません。また、試験系としては
  • 多群間での相対比較
  • 経時変化などのモニタリング
  • 絶対定量値を必要とする検証
に適しています。
CE-TOFMS分析試料中に単一の物質だけが存在することはほとんどありません。そこで、2種類以上の成分から成る試料を成分ごとに分析することを分離分析といいます。現在では、試料の性質に適した手法で分離した後、検出器として質量分析計を使用する手法が主流です。 HMT では、代謝物質のほとんどがイオン性の低分子であることに着目し、イオン性低分子の測定に適したキャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis, CE)と質量分析計(Mass Spectrometry, MS)を組み合わせた分析技術であるCE-MS法を基盤技術とし、分析および分析法の開発を行っています。
電気泳動法は移動速度の差に基づいて物質の分離や確認のために用いられる方法で、低分子イオンからタンパク質、核酸などの生体高分子物質までさまざまな物質の分離に利用されています。DNAの分離に用いられるゲル電気泳動やタンパク質の分離に用いられるSDS-PAGEなどが有名です。 電気泳動法の一つであるキャピラリー電気泳動(CE)は、内径100um以下の非常に細い管(キャピラリー)の両端に高電圧をかけることにより、低分子物質(代謝物質、薬物)から高分子物質(DNAやタンパク質)までイオン性の化合物を高速・高分離能で分離することができます。現在ではキャピラリー動電クロマトグラフィーにより中性物質の分離も可能になっています。 CE-MSに利用されるキャピラリー電気泳動は、正確にはキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)と呼ばれるもので、キャピラリー内に電解質溶液を満たし、両端に高電圧をかけ、その移動度の違いによりイオン性物質を分離する方法です。分離の原理はシンプルで、電荷・溶液粘度・イオン半径の差に基づき生まれる移動度の違いによって分離します。そのため、LCなど他の分離手法に比べ、分析時に考慮すべきパラメータが非常に少ないのが特徴の一つです。 CEの原理 キャピラリーの素材はフューズドシリカ(溶融石英)で、曲げても折れないように外側はポリイミドでコーティングされており、内壁をシラノール基(Si-OH)で覆うことで負に帯電させています。このキャピラリーの両端に電圧をかけると、負に帯電した内壁に面した陽イオンは陰極の方向に移動し、それに伴ってキャピラリー内部の溶液全体が陰極の方向に移動します。この流れを電気浸透流(Electroosmotic flow; EOF)といいます。EOFの大きな特徴の一つとして、壁面付近とキャピラリー中心との間に壁面との摩擦による移動速度の差がほとんどないため、シャープなピークが得られることが挙げられます。通常電気泳動ではゲルなどの支持体は静止していることが望ましいとされていますが、キャピラリー電気泳動では電気浸透流を積極的に利用し、電気泳動と電気浸透流により分離します。 CZEでは、直径が小さく電荷の大きい代謝物質は、直径が大きく電荷の小さい代謝物質よりも速く移動します。通常は分離が困難な構造異性体(たとえばロイシンとイソロイシン)も、わずかにイオン半径が異なるため、CZEを使えば分離することができます。

CE-MSによる構造異性体の分離

構造異性体とは、組成式は同じだが示性式(原子間の結合)が異なる分子のことです。これらは質量が等しいため質量分析計では分離できませんが、キャピラリー電気泳動を用いることで、移動時間(Migration Time; MT)の違いにより分離することができます(図:マウス肝臓中)。 主要な代謝物質で互いに構造異性体であるのは、ロイシン・イソロイシン、糖リン酸(グルコース6リン酸、フルクトース6リン酸、グルコース1リン酸)などです。これらはエネルギー代謝とその周辺に位置する重要な代謝物質です。 CE-MS法ではこれらの代謝物質をたった2条件で一斉に分析することができます。
Supplementary Information
G1P検量線(1~500μM)
G1P検量線(拡大:1~50μM)
G1P検量線テーブル
Sample Information
品種 マウス
系統 C57BL6J
週齢 8週
性別 オス
部位 肝臓
分析装置 CE-TOF MS(Agilent社製)