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メタボロミクスインサイト

メタボロミクスの油生産への応用

2013年05月08日
アブラヤシ
植物分野
背景

マレーシアのサイムダービー社から、アブラヤシで油を生産する研究にメタボロミクスが利用された論文が最近2報発表されました。いずれも、Materials and MethodsでHMTのCE-MS受託解析を利用したことが記載されています。

サイムダービー社は、プランテーション、不動産、建機、自動車、エネルギーなど多岐にわたる分野に進出しているマレーシア最大の企業です。従業員は10万人で (比較対象として、トヨタ自動車の従業員は、単体で6万人、連結で30万人です)、世界的に見ても非常に大規模な企業です。

マレーシアでは、アブラヤシの油産業は、ゴム産業に代わって国を代表する産業となっています。アブラヤシの油生産において、マレーシアは長い間世界一の生産量を誇っていましたが、近年成長著しいインドネシアに2006年以降トップの地位を奪われています。一方でアブラヤシの油の世界規模での需要は今後も倍増すると予測されているため、マレーシアにとってアブラヤシの油生産のメカニズムを明らかにして、油を高生産するアブラヤシの開発を進めることは緊急の課題となっています。

マレーシアを代表する企業であるサイムダービー社は、メタボロミクスを用いてこの課題を解決すべく研究を進めているのではないかということが予測できます。

概要

文献1では、アブラヤシが油を蓄積させていく代謝メカニズムを概観するために、アブラヤシの油を蓄積する全段階、油を蓄積している段階、蓄積した後熟成する段階の、異なる3種類の時期において、中果皮の代謝物質量の変化を調べています。

メタボローム測定は、LC-MSとGC-MSの測定を自社で行い、CE-MSの測定はHMT社にアウトソースしています。

メタボローム解析の結果、糖、アミノ酸、TCAサイクル中間体のレベルが、油を蓄積する前の時期に上昇して、油の蓄積と共に低下していました。ヌクレオシド類のレベルは、油を蓄積する後期と熟成する時期に、上昇していました。

アブラヤシ中果皮におけるこれらの代謝変化は、過去の知見と関連づけて、油を蓄積するために必須なものであると論文中で考察することができました。
文献1の上記の結果は、LC-MS、GC-MS、CE-MSによる網羅的メタボロミクスによって、アブラヤシの代謝変動を詳細に特徴づけた点で非常に価値があるものであると考えられます。

文献2では、メタボロミクスによって、油を多く蓄積させるアブラヤシと少ししか蓄積しないアブラヤシを比較して、油を多く蓄積させるアブラヤシの代謝プロファイルを明らかにしました。メタボローム測定においては、文献1と同様のプラットフォームを用いています。

メタボローム解析の結果、油を多く蓄積させるアブラヤシでは、油を蓄積する前の時期では、アミノ酸、リンゴ酸の蓄積が著しく多く、油を蓄積する後期と熟成する時期にはヌクレオシド類の蓄積が非常に多くなることが明らかになりました。これらの特徴は、文献1で明らかになったアブラヤシ特有の代謝変化と同じです。

また、リンゴ酸とクエン酸の比率が、油を蓄積する前の時期において、油を多く蓄積させるアブラヤシの育種マーカーになることを明確にしました。

まとめ

文献1と文献2をまとめて考察すると、油を多く蓄積させるアブラヤシでは、文献1で明らかになったアブラヤシ特有の代謝変化が、より顕著に認められることが分かりました。これらの知見は、アブラヤシの油蓄積の代謝メカニズムの解明や、育種マーカーとして応用できると考えられます。

アブラヤシの中果皮に蓄積される油は、葉の光合成によって固定される炭素化合物を出発点として合成されます。油を高生産するためには、光合成による炭素化合物の固定能を増大し、さらに固定された代謝物を効率的に葉からアブラヤシの実に転流させ、油を合成する必要があります。

これらの問題を解決するために、メタボロミクスが利用できる点はまだ多数残されています。次の課題は、アブラヤシの油の蓄積と葉の代謝の関連性の解明です。

アブラヤシの油産業は、食糧需要、バイオ燃料の観点から、世界的に非常に重要になってきています。メタボロミクスの結果を活用した育種によって、より多くの油を蓄積できるアブラヤシを開発し、食糧問題、燃料問題を解決するのは、遠い未来ではないと考えられます。そのためには、メタボロミクスの有効活用は欠かせません。

[1]Profiling of metabolites in oil palm mesocarp at different stages of oil biosynthesis.
Neoh BK, Teh HF, Ng TL, Tiong SH, Thang YM, Ersad MA, Mohamed M, Chew FT, Kulaveerasingam H, Appleton DR J Agric Food Chem., 61(8): 1920-7, 2013

PubMed Journal Website

[2]Differential Metabolite Profiles during Fruit Development in High-Yielding Oil Palm Mesocarp.
Teh HF, Neoh BK, Hong MP, Low JY, Ng TL, Ithnin N, Thang YM, Mohamed M, Chew FT, Yusof HM, Kulaveerasingam H, Appleton DR. PLoS One., 8(4): e61344, 2013

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