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メタボロミクスインサイト

統合オミクスによるイネ登熟代謝の解析

2010年05月25日
植物分野

高温ストレスは、穀物の登熟過程に悪影響を与え、収穫時にサイズや量が減少します。近年の地球規模の温暖化により、高温ストレスによる農作物の収量の低下が農業上大きな問題となっています。しかしながら、高ストレス下でどのようなメカニズムによって、穀物のサイズや量が減少するかは明らかになっていません。

概要

本論文では、高温ストレスがイネ登熟過程の代謝に及ぼす影響をメタボローム解析とトランスクリプトーム解析を組み合わせて調べた。

高温ストレス下では、メタボローム解析により、スクロースおよびアミノ酸の蓄積が見られ、TCA回路代謝中間体の有機酸が減少した。トランスクリプトーム解析により、デンプン分岐酵素、デンプン合成酵素の遺伝子発現が抑制され、デンプン分解酵素α-アミラーゼ遺伝子の発現が誘導された。また、TCA回路の酵素、シトクロームc呼吸鎖、プロトンATPaseのタンパク質の遺伝子発現は抑制された。アミノアシルt-RNA合成酵素の遺伝子の発現も抑制された。

メタボローム解析およびトランスクリプトーム解析の結果から、高温ストレス下では、デンプンの分解が進むことが証明された。TCA回路やシトクロームc呼吸鎖が抑制されていることからATP生産も抑制されることが明らかになった。アミノ酸をt-RNAに結合させる段階が抑制されることで、タンパク質合成が進まないため、アミノ酸が蓄積したことが明らかとなった。

結論

高温ストレス下では、穀物の大部分を占めるデンプンの減少、ATP生産の低下によるエネルギー不足、タンパク質合成の抑制によって、サイズや量が低下することが解明された。

筆頭著者である独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構山川 博幹先生のコメント

本論文では、メタボローム解析とトランスクリプトーム解析を組み合わせて高温ストレスがイネの種子登熟代謝に及ぼす影響について整理しました。高温によって、デンプン合成の阻害とデンプン分解の促進が起こり、デンプン合成の際に必要となるATPエネルギーの生産も抑えられていることが明らかとなりました。

イネは夏期に過度の高温に曝されると、米粒の中のデンプンの蓄積が阻害され、デンプンの粒々の隙間に空気が残って、白濁して見える乳白粒が多く発生し、等級落ちすることから生産者にとって問題となっています。

メタボローム解析によって、イネの”夏バテ”の原因が明らかとなりました。私どものイネの高温ストレスの研究はまだまだ道半ばで高温耐性イネ開発に向けた研究をさらに進めていきたいです。

Atlas of rice grain filling-related metabolism under high temperature: joint analysis of metabolome and transcriptome demonstrated inhibition of starch accumulation and induction of amino acid accumulation.
Yamakawa H, Hakata M. Plant Cell Physiol. 51(5) 795-809 , 2010

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