再生医療とがん研究におけるメタボロミクスの貢献

日程・場所

場所 日時 定員  
品川(東京) 6月19日(金)
13:40~16:20(受付開始13:20~)
50名

プログラム

13:40~13:45 ごあいさつ
13:45~14:30 臓器創出への展望
公立大学法人横浜市立大学 大学院医学研究科 臓器再生医学
武部 貴則先生
14:30~15:15 がん治療におけるメタボローム解析と応用
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
姜 文一
15:15~15:35 コーヒーブレイク
15:35~16:20 肺腺がん細胞の代謝チェックポイントと分子標的治療薬
独立行政法人国立がん研究センター先端医療開発センター トランスレーショナルリサーチ分野
牧野嶋 秀樹先生

プログラムは予告なく変更することがあります。変更した場合は当ウェブサイトおよびご登録いただいたアドレスまでご連絡いたします。

概要

日時 6月19日(金)13:40-16:20 (受付開始13:20~)
会場 AP品川9階 Jルーム
住所 〒108-0074 東京都港区高輪3-25-23 京急第2ビル
アクセス JR・京急 品川駅高輪口徒歩約3分
AP品川 アクセスマップ

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定員 50名
参加費 無料(事前登録をお願いします)

講演要旨

臓器創出への展望

武部 貴則
横浜市立大学大学院医学研究科 臓器再生医学
科学技術振興機構 さきがけ
スタンフォード大学
電通×博報堂 ミライデザインラボ研究員

近年、多能性幹細胞を用いた再生医療研究においても、3次元的な高次構造の再構築を伴う(例えば、血管網の付加など)異種細胞が適切に時空間的に配置された「臓器の人為的構成」に基づき細胞の分化誘導を試みる手法に注目が集まっている。

我々は、肝発生の初期プロセスに必須である前腸内胚葉細胞と未分化血管内皮細胞と間葉系幹細胞との細胞間相互作用に着目し、胎内で生じる形態形成プロセスを模倣することのできる三次元培養系(臓器原基構成法)を確立することに成功した。本法を用いることにより、試験管内においてヒトiPS細胞から立体的な肝臓原基を誘導することが可能であり、それらは移植により血管構造を有する機能的なヒト臓器へと成熟することを示してきた(Nature, 499 (7459), 481-484, 2013)。

さらに、本法を用いてヒトiPS細胞から創出したヒト肝臓原基を免疫不全マウスに移植することにより、ヒト血管網を有した機能的なヒト肝臓が構築され、治療効果が発揮可能であること、すなわち、肝不全モデル動物の生存率を著しく改善することが判明した。本講演では、我々が確立したヒト肝臓の人為的構成法について概説するとともに、他器官への応用に関する検討状況(Cell Stem Cell, in press)や、臨床応用へ向けた最新の開発動向を紹介したい。

がん治療におけるメタボローム解析と応用

姜 文一
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社

生命体は常に体外からの様々な刺激をうけており、恒常性を保つために体内反応機構が様々な対応遺伝子やたんぱく質を動かしており、その最終結果として代謝物質に変化が現れる。代謝物質は個体の表現型を一番よく表す指標であり、組織や血液、尿などにおける代謝プロファイルは生体内でおきる多様な生理学、病理学的な現象について有用な情報を提供する。

メタボロミクスはその代謝物質の構成や濃度を解析することで生体内での変化や原因を究明する分野であり、遺伝子と表現型の相関が説明できる最新の手段である。また、既存の網羅的な技術と同じように、メタボロミクスも再生医療分野をはじめ様々な医療分野においての診断や治療の評価としてのバイオマーカー研究にその需要が増えている。特にがんは、ひとつの遺伝子の欠陥により起こるものではなく、慢性的な外界からの刺激や、環境的あるいは遺伝的な影響により起こる病気であることから正常細胞とは異なる代謝変化が起こっているという観点でメタボロミクス研究がさらに注目されている。

さらに、近年では体内で代謝また代謝物質により転写レベルあるいはたんぱく質における制御が行われると考えられていることから、代謝物質そのものががん治療のターゲットとされるmetabolic inhibitorの開発にも期待が高まっている。

本セミナーではメタボロミクスとして最新の代謝プロファイル技術を用いたがんと再生医療分野における研究例を紹介する。

肺腺がん細胞の代謝チェックポイントと分子標的治療薬

牧野嶋 秀樹
独立行政法人国立がん研究センター先端医療開発センター トランスレーショナルリサーチ分野

がんの疾患原因である遺伝子異常を探索するゲノム研究は近年大きな進歩を遂げたが、薬剤のターゲットとなるタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)遺伝子変異・増幅の検出が主要である。変異型キナーゼの多くで、正常細胞をがん細胞にトランスフォーメーションするドライバーがん遺伝子の機能が同定され、がんに特徴的なシグナル伝達経路を遮断する分子標的治療薬は、がん治療戦略において重要な研究テーマである。我々の研究グループは、がん細胞に特有な遺伝子異常を発見し、それをバイオマーカー候補として分子標的治療薬を投与する臨床試験に関与している。私は、がん細胞の遺伝子異常により活性化されるシグナル伝達経路が、がん細胞のどのような代謝経路を制御しているのか、解明する目的でがんの代謝研究を行っている。

最近、メタボリックチェックポイント(Metabolic Checkpoint)と呼ばれる、代謝産物を開始点とするシグナル伝達経路が細胞の生存を決定する、新しい概念が提唱されている。我々の研究においても、がん細胞に対する分子標的治療薬の薬効とシグナル伝達経路の遮断は、必ずしも一致するわけではないため、最終的な表現型である代謝産物を解析することにより、この矛盾点を解決しようと考えた。私は、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)遺伝子に変異を保持した肺腺がん細胞株にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を処理、メタボローム解析を含む代謝解析を行った結果、薬剤感受性株において解糖系およびペントースリン酸経路の代謝産物の減少を最初に見出した。さらに、これらの代謝産物の低下が、RAS/MEK/ERK シグナル伝達経路ではなく、PI3K/AKT/mTOR シグナル伝達経路の阻害により引き起こされることを、最近同定した。これらの結果は、EGFR遺伝子変異肺腺がん細胞のメタボリックチェックポイントが、解糖系およびペントースリン酸経路にあることを示唆している。その可能性と今後の発展性を、皆様と議論したいと考えている。

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