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メタボロミクスインサイト

ミトコンドリアにおける代謝が寿命の長さを決定するメカニズムの解明

2009年11月18日
生物学分野

細胞内のエネルギー代謝は寿命に大きな影響を及ぼしています。エネルギーを産生するミトコンドリアの生合成や機能は寿命に特に関わっていることが知られています。遺伝学的にあるいは薬理学的にミトコンドリアの活性を制御すると、寿命の長さに大きな影響を与えることがすでに報告されています。しかしながら、ミトコンドリアのエネルギー代謝がどのようなメカニズムで寿命の長さを調節しているかについて詳細は分かっていません。

本論文では、ミトコンドリアに局在するタンパク質プロヒビチンに着目して、線虫を用いてミトコンドリアにおける代謝と寿命の関係について調べています。

概要

プロヒビチンはミトコンドリアで複合体を形成し、細胞内の様々な生物学的現象に関与している。プロヒビチンをRNAiによってノックダウンすると胚性致死になるので、胚発生後RNAiでノックダウンする方法でプロヒビチンの欠損が寿命に及ぼす影響を調べた。

野生株でプロヒビチンをノックダウンさせると寿命は短くなったが、インスリン生育因子Daf2の変異株(daf2)でプロヒビチンをノックダウンさせると逆に寿命が長くなった。形質転換成長因子βホモログDaf7の変異株(daf7)でプロヒビチンをノックダウンさせると寿命が長くなり、野生株とdaf2およびdaf7ではプロヒビチンをノックダウンさせることによって寿命の長さに及ぼす影響は逆であった。

ミトコンドリアは脂肪酸を酸化することによってエネルギー産生するので、脂肪量を調べた。5日目、10日目、15日目の脂肪量を比較すると、野生株でプロヒビチンをノックダウンさせると5日目では野生株と比較して脂肪量は減少するが、10日目、15日目ではこの減少は見られなかった。一方、daf2およびdaf7でプロヒビチンをノックダウンさせるといずれの日でも脂肪量は減少した。NHR-49およびFAT-7タンパク質は脂肪の消費に関わっており、nhr-49およびfat-7でプロヒビチンをノックダウンさせると寿命は長くなり、また脂肪量は減少した。これらの結果は、脂肪量の減少によって寿命が長くなることを示唆している。

次にミトコンドリア量を調べた。野性株でプロヒビチンをノックダウンさせるとミトコンドリア量が増加したが、daf2およびdaf7でプロヒビチンをノックダウンさせるとミトコンドリア量が減少した。また、野生株よりも寿命が長いdaf2およびdaf7ではミトコンドリア量が減少した。したがって、ミトコンドリアの量が減少することによって寿命が長くなることが明らかになった。

以上の結果から、通常栄養条件下ではプロヒビチン欠損により脂肪利用、エネルギー産生の調節ができなくなることによって寿命が短くなるが、栄養制限下ではプロヒビチン欠損は寿命を長くすると考えられる。20ºCでは野生株でプロヒビチンをノックダウンさせることで寿命が短くなるが、温度上昇により代謝活性が高いためエネルギーが不足する25ºCではプロヒビチンをノックダウンさせることで寿命が長くなる。この実験結果は、著者たちの見解をサポートしている。

本論文では、非常に多くの実験が行われ、プロヒビチン、ミトコンドリアにおける代謝、寿命の長さなどについて多くのデータが報告されていましたが、読みやすさの関係で一部省略しました。

代謝活性を低くすると寿命が長くなるという報告がこれまで多数あり、代謝と寿命は切っても切り離せない関係なので、人間の寿命を長くするという究極の目的のため、代謝研究は今後もますます重要になっていきます。

Prohibitin Couples Diapause Signalling to Mitochonddrial Metabolism during Ageing in C. elegans .
Artal-Sanz M, Tavernarakis N. Nature., 461(7265): 793-797, 2009

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