«

»

インタビュー

【研究者インタビュー】鳥取大学医学部 三浦典正准教授 (前篇)


今回は、鳥取大学医学部病態解析医学講座でがん研究をしておられる三浦典正先生にお話を伺いました。前篇・後篇に分けてお届けします。

三浦先生が2014年1月に発表された、癌を非癌状態に変化させるマイクロRNAについての発表(Scientific Reports)は様々なメディアで取り上げられていたのでご存知の方も多いかと思います。2011年にHMTメタボロミクス研究助成を受賞された篠田和香さんも三浦先生の研究室で研究されていました。

―まず初めに、先生のご研究について簡単に説明していただけますか?

癌に導入することによって、違う細胞や癌ではない細胞、つまり正常細胞もしくは良性細胞に変えてしまうマイクロRNA「miR-520d」の研究を行っています。

基本的に癌というのは脱分化の方向、高分化なものからどんどん未分化な方向に進み、不均質な細胞集団に変化しますので、抗癌剤を使って高分化・中分化な細胞を破壊したとしても、低分化・未分化な細胞(癌幹細胞がもし存在するならそれに類するもの)は残り、再発の原因になります。このマイクロRNAは高分化な癌細胞よりも未分化な癌細胞のほうが早く効くということが分かっています。

未分化な状態のがんには本当によく効きますね。あっという間に良性化するのだろうと思います。逆に悪性度の低い高分化がんは1カ月くらいかかったりしますね。

例えば癌患者さんが早期に小さい腫瘍のうちに手術で切除しても再発することがあります。そこで、手術後このマイクロRNAを応用した薬を使うことで残ってしまった癌細胞を標的とした治療が可能になります。むしろこれまで対処し辛かったそういった患者さんに対しての有効性が高いことが期待されています。

―必要なマイクロRNAは「miR-520d」一種類なんですね

はい。たった20 merしかない小さなRNAなのですが、塩基配列を少し変えてしまうと全く効かなくなります。実はmiR-520dは3番染色体と5番染色体から切り出されてくるのですが、異なっています。そうすると効き具合が全く違うので、塩基配列がそのセットそのものでないとダメなのだろう考えています。

現在2200以上のマイクロRNAが発見されていますが、たくさんあるマイクロRNAの中で癌を良性化するものに巡り合ったということだと思います。

―癌は部位によって特徴が違うと思いますが、どの部位の癌にも効くのでしょうか?

鳥取大学三浦典正先生
膵癌、肝癌と悪性黒色腫はin vivoで確かめていて、そのほかの未分化型癌細胞はin vitroでやっています。脳腫瘍をネズミの脳に移植してmiR-520dを導入してみたのですが、その結果癌細胞は腫瘍として形成されないことを確かめました。ですから消化器癌以外の癌にも効果があると考えています。

確定的なことは言えませんが、神経分泌系を含む神経系に分化する腫瘍のほうが感受性が高く、効きやすいという印象を持っています。

―ずっとこの研究を続けてこられたのですか?

私は元々癌を制御する遺伝子のクローニングをやっていたのですが、そのときのボスが老化誘導の研究をしておられました。癌を老化誘導するということは癌を正常化するということにほぼ等しいのです。老化するということは正常細胞ならではですから。そのころから理想的な方向性で研究しておられる先生だなと思っていて、その研究室で手法を学んできていますので、大学院1年目の時からずっとですね。長いですね。

―がん研究分野で代謝解析がどのように貢献できるか、先生のお考えをお教えいただけますか?

ある病態を調べる中で、遺伝子の研究はだいたい出揃ってきているような気がします。一方で生化学的な物質の変化というのは病態特異的なものがかなりあると思うので、まだまだ研究の余地があると感じています。

私の場合はとにかく細胞が変わったということを証明する上で生化学物質がとっても分かりやすい指標でした。今回の研究成果では、原因がミトコンドリアにあるかどうかはまだ分かりませんが、とにかく電子伝達系やミトコンドリアに影響を与えて、結果として癌を変化させる効果を持っているということが分かりました。おそらくそういった代謝の変化が癌を引き起こすとか治すとか、そういう指標になるのではないか、と考えています。

先ほどマイクロRNAに着目する以前、元々私は遺伝子のクローニングを行っていたとお話しましたが、RGM249という遺伝子(ヒトncRNA遺伝子RGM249:がん細胞の分化度や293FT細胞のhiPSCへの形質転換を制御する)を一生懸命クローニングしているとき、エクソンのシークエンスをプローブにしてcDNAを釣っていたところ、ミトコンドリアDNAに含まれる遺伝子がものすごく多かったのです。癌の場合は好気環境下でも解糖系を優先して利用すると言われていますけれども、好気呼吸の場であるミトコンドリアDNAにヒットしているものがかなりあったのです。

このときはなぜミトコンドリアがヒットするのか分からなかったのですが、癌に導入をしたマイクロRNAが生化学的にどんなふうに変化を与えたのか、というところに興味を持ったのは、もしかしたらこの時の経験が良い契機になっているのかもしれません。
(後篇に続く)

(2014年5月 インタビュー・写真:井元淳)

インタビュイープロフィール
三浦 典正(ミウラ ノリマサ)
1991年 鳥取大学医学部医学科 卒業
1996年 鳥取大学大学院医学系研究科生理系専攻博士後期課程 修了
1998年 テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター癌治療センター 研究員
2001年 鳥取大学医学部 臨床薬理学(現 薬物治療学)助手
2003年 同上 講師
2006年~ 鳥取大学医学部 病態解析医学講座 薬物治療学 助教授(現 准教授:名称変更)

その他の研究者インタビューはこちらから

«

»

メタボロ太郎なう

Photos on flickr