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先導助成

2018年度先導助成授与式を執り行いました


冬の気配が濃厚になってまいりました。こんにちは、HMT永石恵美です。

今年もたくさんの応募をいただきました2018年の先導研究助成です。1031日に弊社東京事務所で授与式を行いました。

受賞された方がどのようなご研究をされているのかご紹介いたします。

今年から過去に受賞された方に弊社にてご講演をいただくことに致しました。

受賞されたご研究がどのように進んでいるのか、どのように世の中の役に立っているのか、

なかなか知る機会がないのでとても興味があります。

ご講演いただきました秦先生、金子先生、貴重なご講演ありがとうございました。

 

それではまずは先導研究助成授与式です。

2018年度の先導助成授与式について研究開発本部開発一部部長山本より総評です。

今年度から、大賞は大学・研究所・企業において研究活動に従事されている方であればどなたでもご応募可能に変更し、若手の研究員の方から、助教、准教授、教授といった幅広い層の先生方からご応募を頂きました。また奨励賞は、これからの世代を担う若手研究者の方にもメタボローム解析をご利用いただきたいとの思いから、大学院博士課程の学生の方のみご応募可能に変更させて頂きました。

今年度は、幅広い層の先生方からご応募を頂いた結果、例年にも増して提案内容のレベルが高かったことが印象的でした。ご応募いただいたどのご提案も、メタボローム解析を実施して解析結果を見てみたいと思う内容ばかりで、審査を担当している研究員からも、こういうサンプルを取ればさらに面白い発見に繋がるのでは?といった前向きな意見が出るなど、審査というより研究のディスカッションをしているかのような錯覚に陥るほど、非常に活発な議論がなされました。

採択率は概ね1割と決して高くはありませんが、ご応募頂いた中でどのご提案が採択されても不思議ではなく、ご応募頂いた方のどなたにも可能性があると思います。来年度も継続して実施する予定ですので、皆様のご応募をお待ちしております。

 

2018年度の採択課題については「2018年度HMTメタボロミクス先導研究助成 採択研究課題を発表しました」をご覧ください。

授与式では採択者のお二方に一言ずつコメントをいただきました。


味水 瞳さん

京都大学医学部呼吸器内科学の味水 瞳と申します。

この度はHMTメタボロミクス先導研究助成にご採択頂きまして、誠にありがとうございました。

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私たちの研究室では肺癌における薬剤耐性および治療抵抗性の克服をテーマとしており、現在ALDHファミリーに着目して研究を進めています。ALDHはアミノ酸代謝、解凍系などに関わる分解酵素ですが、同時に乳がん・肝細胞癌・肺癌などで癌幹細胞マーカーとしても報告されています。DSC_0260

我々の研究室では、ALDHファミリーのうちの一つであるALDH1A1が薬剤耐性肺癌細胞株において高発現していること、また、ALDH7A1強制発現株はマウスモデルで強い腫瘍形成能を持っていることを確認しております。しかしながら、ALDH7A1がどのようにして腫瘍形成能を持つのか、どの代謝経路を介しているのかについては既報も含めて不明な点が多くあります。今回私たちはメタボローム解析によってALDH7A1の代謝経路検索を行い、治療標的の発見につなげたいと考えています。

私たちの研究成果が肺癌治療を行っておられる多くの方に還元できるよう、日々精進してまいります。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

村松 里衣子さん

DSC_0265国立精神・神経医療研究センター神経研究所 神経薬理研究部の村松里衣子と申し ます。この度は2018年度HMTメタボロミクス先導助成を賜りまして、大変光栄に存じ ます。採択してくださった方々にお礼申し上げます。

 私は脳疾患の病態解明の研究に従事しています。脳や脊髄の疾患では、様々な重篤 な症状があらわれます。症状が現れる要因のひとつに、病巣での神経組織の傷害が指 摘されています。そのため、神経組織の傷害を防ぐことができれば、症状の進行を阻 むことができると期待されますが、そのメカニズムには不明な点が多くあります。今 回ご採択いただいた課題は、指定難病である筋萎縮性側策硬化症における神経組織の傷害のメカニズムの解明を目指すものです。得られる知見をもとに、将来的には疾患 に対する治療薬の開発へつなげていければと願っています。

微力ではありますが、神経疾患の克服へ貢献できるよう精進してまいりますので、ご指導ご鞭撻をよろしくお 願い申し上げます。DSC_0263

 

 

 

引き続き講演会での内容をご紹介します。

2012年のメタボロミクス先導研究助成で大賞を受賞された秦咸陽先生と2016年に大賞を受賞された金子真大先生にお越しいただきました。

秦先生が受賞された授与式はこちらをご覧下さい。

「2012年度先導助成授与式を執り行いました」

金子先生が受賞された授与式はこちらをご覧下さい。

「2016年度先導助成授与式を執り行いました」

 

秦先生のご講演内容です。

本日はお招きいただき誠にありがとうございます。理化学研究所肝がん予防研究ユニットの秦咸陽と申します。2012年度の先導研究助成のご支援いただきました研究、「メタボローム解析を用いた非環式レチノイドの肝細胞癌選択的殺細胞作用の分子機構解明」の進捗を報告させていただきます。日本における肝がんの年間罹患数は約40,000人に上り、ステージIであっても5年生存率は7080%と極めて予後不良です。今回の先導助成のメタボローム解析により、肝がん再発予防薬非環式レチノイド(ACR)の代謝標的を同定しました。CE-TOFMS解析により、ACRが肝がん細胞で(正常肝細胞と比べて)特異的にエネルギー代謝調節酵素 PDK4の発現を誘導し、肝がん細胞のATP生産を阻害するという標的経路を見出しました (PLoS One, 2013)。マウス肝発がんモデルを用いたCE/LC-TOFMS解析では、肝発がんにおけるadenoma段階において、グルコース代謝異常が見られない代わりに、脂質代謝が亢進されており、ACRが不飽和脂肪酸の代謝を阻害しがん化進展を抑制する方向に働くことが分かりました(Cancer Prev Res, 2016; FEBS Open Bio, 2018)。さらに、LC-TOFMS解析によりオレイン酸などの不飽和脂肪酸のレベルがACRの標的であるMYCNhiEpCAM+肝がん幹細胞で著しく高いことが分かりました(Proc Natl Acad Sci U S A, 2018)。近年、脂質代謝は、がんの免疫監視の抑制やstemnessの維持など多彩な機能を発揮し、発がんとの関連が注目されています。本助成の研究成果として、不飽和脂肪酸の代謝が肝がん予防の標的となる可能性が示唆されました。今後も肝がん予防や診断に役立つ研究を目指して頑張って行きたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 

金子先生のご講演内容です。

東京大学大学院工学系研究科の金子真大と申します。

細胞内におけるレドックス状態は、代謝と密接に関係しています。我々はこの事実に注目し、細胞膜を透過する電子輸送ポリマーを合成することで、細胞内レドックス状態、ひいては代謝の電気化学的制御を試みてきました。このポリマーを微生物や哺乳類細胞に適用することで、特定の代謝物濃度が変化することは確認されていましたが、代謝全体で見たときに実際に何が起きているのか、という大局的な視点からの理解は進んでいませんでした。

そこで、代謝の包括的理解にはメタボローム解析が適しているだろうと考え、2016年度HMTメタボロミクス先導研究助成に応募したところ、運よく大賞を受賞させていただきました。実際にサンプルのメタボローム解析をしていただいたところ、電子輸送ポリマー共存下ではエネルギー代謝やアミノ酸代謝が大きく変化していることが分かりました。現在は、この結果をもとに、より代謝制御に適した新たな電子輸送ポリマーの開発に取り組んでいます。

 

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みなさまお忙しいところご足労いただきありがとうございました。

みなさまの研究の発展が楽しみです。

メタボロミクス先導研究助成は継続の予定です。4月以降にご案内しますのでぜひご応募ください。

 

 

 

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メタボロ太郎なう

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