こんにちは、バイオメディカルグループの大賀です。
こちら研究所は、おかげさまで正月ボケを一気に吹き飛ばす程の忙しさです。昨年と比べてもメタボロミクスの受託サービスが格段に普及したことを肌で感じることができ、所員一同、嬉しい悲鳴をあげながら測定データや報告書とにらめっこの毎日です。今年も、さらに広がりゆくメタボロミクスへの需要と期待に応えるべく、昨年までにじっくりと積み上げてきたノウハウを生かして取り組んでゆきます。
さて、年が明けてはや半月、正月ボケはすっかり抜けたものの、年末の暴飲暴食とお正月のおもちで膨れてしまったお腹と食欲は、なかなか元に戻りません。雪のために、外で体を動かす機会が少なくなったこの季節、健康の為にも、栄養の摂取と消費のバランスには注意を払いたいところですが…昨年末、栄養摂取と寿命に関する幾つかの興味深い研究成果が発表されました。
一つめの研究は、ショウジョウバエの寿命と繁殖力に及ぼす栄養摂取の影響について。 個体の寿命と繁殖力(産卵量)を最適にするよう調整された餌に、各種の栄養素を添加したところ、必須アミノ酸だけを添加した条件で、顕著な寿命の短縮と繁殖力の増加が観察されたそうです。その中でも特に、メチオニンを単独で添加すると、繁殖力の増加には十分な効果が観察されました。寿命の短縮については、その他のアミノ酸の関与があるものの、メチオニンは必要条件であることも判明しました。具体的なメカニズムは解明されていませんが、上記の応答にはインスリンシグナル伝達の因子が関与していたとのこと。ちなみに、メチオニンやその他必須アミノ酸が寿命に影響するということは、げっ歯類など哺乳類でも観察されているそうです。
もう一つの研究は、線虫における炭素源と寿命の関係について。
こちらのケースでは、培地に少量のグルコースを添加すると、成体以降で寿命の短縮が観察されました。このとき、寿命の制御に関与する因子として今回新たにグリセロールチャネルが同定されています。 グルコースやグリセロールを添加した条件ではこのチャネル発現量が低下し、またこのチャネルの欠損株では炭素源の添加に対する応答が観察されなかったそうです。さらに、このチャネルがインスリンシグナル因子の発現に関与していることも、実験的に確認されました。
しかし、グリセロールの添加によって線虫内グルコース濃度が上昇した結果にはなっておらず、グリセロールが脂質(トリグリセリド)の骨格であることからも、脂質代謝からシグナルが生じた可能性もあり得るようです。なお線虫に関しては、昨年末の Scince誌にも、飢餓と寿命や生殖細胞発達に関する研究の成果が掲載されています。
十分な栄養があると寿命が短くなるというのは、一見、割りにあわない現象のように感じますが、栄養飢餓に対する適応戦略という視点に立つと、理にかなったメカニズムであることが分かります。
例えば、一時的に餌が少なくなった環境では、栄養を必要とする成長期の個体を多く作るより、比較的栄養要求が低く且つ生存能力が高い個体、つまり成体の数を増やした方が生き残りには有利でしょう。そのために成体の時期を長くする、つまり寿命を延長することは、一つの有効な戦略だと言えます。
もともと自然界にある生命のほとんどは、餌が不足している環境が「常時」といえる訳で、そう考えると健康のために敢えて食事制限を、なんてことがもてはやされる今の(一部の)ヒト社会というものが、どれだけ自然とかけ離れたものになってしまったのだろうか、と、改めて感じさせられます。
社会や生活習慣は、これからも短い時間でさらに変わりゆくことでしょうが、数十億年かけてじっくり作られてきた私達のカラダの仕組みは、きちんと理解して覚えておきたいものですね。
昨年このブログでも取り上げた(寒鱈まつりと酵素活性)『日本海寒鱈まつり』が、今年もこの週末(1月17日)に開催されます!季節の味覚、寒だらがたっぷり入ったどんがらで、体の芯から温もる事ができますよ。近くにお住まいの方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう?私も、ぜひ、食べ…すぎない程度に。
Amino-acid imbalance explains extension of lifespan by dietary restriction in Drosophila.
Nature. 2009 Dec 24;462(7276):1061-4.
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Glucose shortens the life span of C. elegans by downregulating DAF-16/FOXO activity and aquaporin gene expression.
Cell Metab. 2009 Nov;10(5):379-91.
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[3] Angelo G, Van Gilst MR.
Starvation protects germline stem cells and extends reproductive longevity in C. elegans.
Science. 2009 Nov 13;326(5955):954-8.
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