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ABC's of Metabolomics

メタボロミクスにおける安定同位体の利用


研究開発本部の藤森です。今回から安定同位体を採り入れたメタボロミクスについてのお話です。

一般的なメタボローム解析では、細胞内のあるタイムポイントでの代謝プロファイルしか見られません。

例えば、植物の葉のメタボロミクスにおいて、植物をある条件に置いた時に、TCAサイクルでクエン酸、イソクエン酸のレベルは変動しないが、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸のレベルは低下し、さらにグルタミンをはじめとする特定のアミノ酸のレベルが上昇したとします。

安定同位体のメタボロミクス上記の結果を解釈すると、窒素同化が活性化して、TCAサイクルの代謝中間体は、2-オキソグルタル酸を介して、グルタミン酸、グルタミン等のアミノ酸の生合成に利用され、その結果として、TCAサイクルの2-オキソグルタル酸の下流の代謝物質であるコハク酸、フマル酸、リンゴ酸のレベルが低下し、グルタミン等のアミノ酸のレベルが上昇したと考えることができます。

実際に、シロイヌナズナを生育させる寒天培地中のアンモニウムイオンのレベルを上げると上記のような代謝変動が葉で見られます。

しかし、あるタイムポイントの代謝プロファイルを見ただけでは、上記の解釈の代謝変動が実際に植物の葉で起きているかは完全に証明できません。

例えば、オキサロ酢酸からアスパラギン酸への代謝の流れが活性化し、それに伴い、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸のレベルが低下したという可能性を完全に否定することはできません。

これを証明するためには、条件を変えた後の時間経過に伴う葉の代謝変動をモニターする方法もよいですが、安定同位体を用いてメタボローム解析を行い、その安定同位体をモニターすることで代謝の流れを明確にするのが最も良いと考えられます。

実際の生物学の研究では、まずあるタイムポイントの代謝プロファイルを把握し、その結果を基に特定の代謝経路に着目、安定同位体を用いたメタボロミクスによりその経路の代謝の流れを明確にするというのが一般的な手順です。

しかし安定同位体はもともと量が少ないので、検出し、きちんと定量することができるピークが少ないのが現状です。質量分析器の感度および分解能が今後さらに向上すれば、検出・定量できるピークが増え、代謝の流れがより明確になり、より踏み込んだ生物学的考察が可能になります。そうなれば、安定同位体を用いたメタボロミクスの研究は増えていくでしょう。

次回は、安定同位体を用いたメタボロミクスの成功例をご紹介しつつ、安定同位体をどのように利用するのが良いか考えてみたいと思います。

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メタボロ太郎なう

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