研究開発本部の藤森です。前回「メタボロミクスを何が変えたか?」ではメタボロミクスの結果のみから可能性を考察するだけの段階から、さらに実験結果を加えて新しい知見を導き出す段階に進む契機となった論文について触れましたが、今回はメタボロミクスで得られた結果に対して可能性の提唱等の考察をするだけでなく、新しい知見を結論づけるために具体的にどうすればよいのかについてお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。
「メタボロミクスの結果で、表現型とある代謝物質レベルの挙動がリンクしている可能性が非常に高いことが分かった」という研究を想定してみましょう。その後、何をすればそこから新しい生物学的知見が得られるのでしょうか?
ゼロの状態から解決法を提案することは非常に難しく、メタボロミクス研究の過去の成功事例を見て、その中から解決法を探していくのがよいと考えられます。
例えば、前回のブログで紹介したNatureの論文からは、以下のことが学べるのではないかと思います。
当該論文では、表現型と代謝物質レベルの関連性を調べるために、その代謝物質を合成する酵素遺伝子の活性を下げることで代謝物質レベルを下げると表現型が弱まるか、あるいはその代謝物質を分解する酵素遺伝子の活性を下げることで代謝物質レベルを上げると表現型が強まるかを調べています。
このように、目的の代謝物質が位置する代謝経路上の前後の反応の酵素は、遺伝子操作等のターゲットとなり得ます。
これらの解析でポジティブな結果が得られた場合、代謝物質のレベルが変動することが表現型に影響を及ぼすことをより明確にでき、このポイントをきっかけとして、より詳細な解析を進めていくことが可能となります。
一方、これらの解析でネガティブな結果が得られた場合、表現型の影響により代謝物質レベルが変動しているか、あるいは何らかの人工的な要因で、表現型と代謝物質レベルの関連性がメタボロミクスの結果で認められてしまった可能性が考えられます。次のステップとして、どちらの可能性かを明確にするための実験を設計すればこの課題を解決することができます。
その他の例では、培地中に目的の代謝物質を加えることで細胞内におけるその代謝物質レベルを上げると表現型が強まるか、あるいは培地中から目的の代謝物質を除くことで細胞内におけるその代謝物質レベルを下げると表現型が弱まるかを調べる方法があります。「メタボロミクスは何が変わったか?」で紹介したSegearらの論文はこの方法を用いています。
今回は2例しか挙げていませんが、メタボロミクス関連の論文を読み込めば上記以外の方法でもメタボロミクスの結果をいろいろな方法で活かしていることがお分かりになるはずです。弊社のウェブサイトのメタボロミクスインサイトでも、論文を紹介していますのでご覧になってみてください。
メタボロミクスで新しい知見を導き出すためには、論文をたくさん読みこみ、実際に用いられている方法を少しでも多くピックアップし、詳細に検討して、自分の研究に応用できる型を模索していくのが一番良い方法だと思います。
次回のブログからは、新しい話題にする予定です。