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ABC's of Metabolomics

メタボロミクスは何が変わったか?


研究開発本部の藤森です。今年度、メタボロミクスのブログを執筆していきますので、よろしくお願いいたします。

メタボロミクスが行われるようになってから、約10年間が経過しました。その間にメタボロミクスは著しい進化を遂げました。それは初期の頃のメタボロミクスの論文と最近の論文を読み比べていただければ、一目瞭然だと思います。今回のブログでは初期の頃と最近のメタボロミクスの比較をご説明します。

従来の研究は、生物のある一つの現象に着目し、これまでの知見を基に仮説を提唱し、それを実験によって証明するという方法がとられてきました。

一方オミクス研究は、仮説を立てずにデータを収集し、得られたデータから新たな知見を抽出するという方法がとられてきました。つまり、仮説の立てにくい研究ではオミクス研究に大きな優位性がありました。

この流れに乗って、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクスと共に、解析対象物中の代謝物質を網羅的に解析するメタボロミクスも盛んに行われるようになりました。

ある代謝疾患を研究しているとき、代謝に影響を与える可能性があるということは予測できるけれども、メカニズムが複雑すぎてどの代謝経路に影響を及ぼすかが分からない場合があります。このようなケースでは、バイアスなしに代謝全体を見ることができるメタボロミクスを活用するのが唯一の解決法になります。

ただし、初期の頃のメタボロミクスの論文では、次のような結論が得られるのみでした。

ある生物に環境ストレスを与えたら、これらの代謝物質が変動して、その結果こういうことが予測できました。ある遺伝子を過剰発現/発現抑制したら、これらの代謝物質が変動して、遺伝子の機能とこの代謝経路は関連している可能性が示唆されました。ある疾患の患者と健常者の血液や尿でいくつかの代謝物質が変動したので、これらの代謝物質は疾患と何らかの関係があることが示唆されました。。。

得られたデータから可能性を示唆することは科学としては非常に重要なことですが、いずれの論文でも確定的なことを言えるところまでには至りませんでした。

一方、2013年にJournal of Biological Chemistryで発表されたばかりのSegear Johnson et al.(文献1)の論文では、メタボロミクスによりキーとなる代謝物質を見つけ、それを出発地点として論文ストーリーが構成されています。

初期の頃の論文は、メタボロミクスをやること自体が論文全体を占めていたのに対して、この論文では前置きの段階でメタボロミクスが利用されています。

しかも、メタボロミクスで得られた知見を有効活用してさらに多くの実験結果を加えて、新たな生物学的現象を明らかにしています。

このように、メタボロミクスの結果を基に仮説を立て、この仮説を他の実験で証明し、新たに研究が展開していく流れが見られることは、メタボロミクスという学問が進化した証だと考えられます。

では、メタボロミクスがただ測るだけの研究から、その先まで進む研究へ、どのように進化していったのでしょうか?その先まで進むためには何をすればよいのでしょうか?

次回以降のブログでは、この点に関してご説明させていただければと考えています。

[1] Segear Johnson E, Lindblom KR, Robesson A, Stevens RD, Ilkayeva OR, Nwegard CB, Kornbluth S, Andersen JL , Metabolomic profiling reveals a role for caspase-2 in lipoapoptosis. , Journal of Biological Chemistry , 2013
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メタボロ太郎なう

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