バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。植物メタブローグ第六弾です。
これまでに、植物の生産性を上げるための研究の結果、
- 無機窒素化合物を有機窒素化合物に変換する窒素同化経路を同化させる経路を強化しても植物体中の有機窒素量を増加させることができないこと
- ホスホエノールピルビンからオキサロ酢酸を生成するホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼを活性化しても、窒素同化経路への2-オキソグルタル酸の供給量が増加し、結果としてアミノ酸レベルの上昇が認められるが、それに伴う生育の促進が見られないこと
が分かってきたということを前回までのブログでお話しました。
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼを活性化し、アミノ酸量を上げても生育がよくならないのは、植物体中において、糖リン酸および有機酸とアミノ酸レベルのバランスが保たれないからであると考えられます。
そこで今回からは、植物の生産性を上げるために、大気中の二酸化炭素を取り込んで代謝物中に固定する代謝経路であるカルビンサイクルに着目した研究についてお話します。カルビンサイクルは、別名では還元的ペントースリン酸回路と呼ばれており、植物の光合成における炭酸固定反応に始まり、二酸化炭素受容体代謝物の再生で終了する循環過程を言います。
今回紹介するのは、カルビンサイクルで働く代謝酵素を過剰発現することによって、実際に植物の生産性を向上させた論文です。
カルビンサイクルでは、リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)酵素による二酸化炭素を二酸化炭素受容体代謝物に固定する代謝反応が律速段階であると考えられていました。しかしこの論文では、カルビンサイクル内で働いている酵素群において量が相対的に少ないフルクトース1,6-ビスリン酸ホスファターゼとセドヘプツロース1,7-ビスリン酸ホスファターゼを過剰発現した植物体(タバコ)を作製し、二酸化炭素固定活性や生育について調べています。
過剰発現植物体では、二酸化炭素固定活性は上昇し、またRubisco酵素の基質である二酸化炭素受容体代謝物質やRubisco酵素の反応代謝物も上昇しており、カルビンサイクルの代謝回転が活性化し、代謝中間体量ともに上昇していました。その結果として、スクロースやデンプン量も増加しました。さらに、生育の上昇も認められました。
論文の結果から、カルビンサイクルの2つの酵素を活性化させることによって、二酸化炭素の取り込みが上昇し、スクロースやデンプンレベルが増加し、生育の上昇が認められました。
植物の生産性を上昇させるために、これまで窒素同化経路の強化やホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性化による有機窒素量の増加が試みられてきましたが、顕著な成果は認められませんでした。
一方、二酸化炭素を有機代謝物に固定するカルビンサイクルを活性化することによって、生育の活性化が見られました。カルビンサイクルを活性化すると、生成されたトリオースリン酸が、スクロース合成経路、デンプン合成経路に加えて、解糖系に供給されます。トリオースリン酸が解糖系に供給されると、TCA回路を経由して、窒素同化経路へ2-オキソルグルタル酸が供給され、アミノ酸合成が活性化します。
しかしながら、この論文ではアミノ酸をはじめとする有機窒素量については測定していませんでした。この過剰発現植物体で生育が上昇するのが真実であれば、カルビンサイクルの活性化による代謝全体への効果をメタボローム解析で調べてみると面白いかもしれません。また、応用面を考えると、タバコだけでなく、イネやトウモロコシでも同様に炭酸固定系の活性化によって生育を向上させることができるか調べてみる必要があります。
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