バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。植物メタブローグ第七弾です。
前回のブログでは、カルビンサイクルのフルクトース1,6-ビスリン酸ホスファターゼとセドヘプツロース1,7-ビスリン酸ホスファターゼを過剰発現させた植物体(タバコ)で、二酸化炭素の取り込みが上昇し、スクロースやデンプンレベルが増加し、生育が上昇することを紹介しました。
しかしながら、カルビンサイクルの律速段階は、リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)酵素による二酸化炭素を二酸化炭素受容体代謝物に固定する代謝反応であると昔から考えられてきており、この仮説をサポートする結果も多く得られています。そこで、今回のブログでは、Rubiscoを過剰発現させたイネで、二酸化炭素の取り込みや生育について調べた論文についてお話します。
Rubiscoは、葉緑体遺伝子rbcLによってコードされる大サブユニットと核遺伝子RBCSによってコードされる小サブユニットから構成されています。この論文では、RBCS遺伝子を過剰発現させることによってRubisco過剰発現植物体イネを作製しています。核遺伝子RBCSを過剰発現させると、未だ同定されていないメカニズムで葉緑体遺伝子rbcLの発現も上昇し、Rubisco量を増加させることができました。
Rubisco過剰発現イネでは、Rubisco量は増加したにもかかわらず、二酸化炭素取り込み活性の上昇が見られず、植物体の大きさ、乾重量についても正の効果は見られませんでした。一方、Rubisco量を抑制したイネでは、二酸化炭素取り込みの活性や乾重量の顕著な低下を観察することができました。
カルビンサイクルの律速段階の反応を担う酵素であるRubiscoを過剰発現させても二酸化炭素取り込みが活性化しない理由としては、いくつか考えられます。
一つ目は、カルビンサイクルが一回転するためには、ATPからADPへの変換、NADPHからNADPへの変換が必要であり、ATPあるいはNADPHが欠乏している可能性です。
二つ目は、Rubiscoの反応基質であるリブロース1,5-ビスリン酸の欠乏している可能性が考えられます。
三つ目は、野生株ではRubisco酵素が担っている反応が律速段階であったのが、律速段階が他の代謝反応に変わった可能性が考えられます。
四つ目は、Rubiscoの過剰発現によるタンパク質合成に植物体内のアミノ酸が利用されてしまったため、他のタンパク質合成に必要なアミノ酸が欠乏している可能性です。
Rubisco過剰発現植物体のメタボローム解析を行なえば、上記の可能性について精査できると考えられます。カルビンサイクルの代謝中間体はリン酸基がついているので、この解析にはCE-MSを用いるのが最も適しているでしょう。
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