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ABC's of Metabolomics

【第8回植物とメタボロミクス】植物の生産性向上のためのメタボローム(その7)


バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。植物メタブローグ第八弾です。

前回のブログでも触れましたが、大気中の二酸化濃度の状態では、カルビンサイクルの律速段階であると考えられている代謝反応はリブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)酵素によって触媒されています。

このRubiscoは、二酸化炭素だけではなく、酸素とも反応します。カルビンサイクルでは二酸化炭素とリブロース1,5-ビスリン酸から二分子の3-ホスホグリセリン酸を生成する一般的によく知られている反応を担っています。また、酸素とリブロース1,5-ビスリン酸から3-ホスホグリセリン酸とホスホグルコール酸を生成する反応も担っています。

生成されたホスホグルコール酸は、光呼吸によって再び3-ホスホグリセリン酸が生成されますが、二酸化炭素やアンモニウムイオンを放出し、ATPやNADPHを浪費するため、一見無駄な反応に見えます。実際、酸素とリブロース1,5-ビスリン酸による反応は、カルビンサイクルの活性を低下することが分かっています。

今回紹介する論文では、酸素とリブロース1,5-ビスリン酸から生成された代謝物を速やかにグリセリン酸に変換する反応系を葉緑体内に構築し、カルビンサイクルを活性化することによって植物の生産性を上げることに成功したという内容です。

グリコール酸脱水素酵素、グリオキシル酸カルボリガーゼ、タルトロン酸セミアルデヒド還元酵素をコードする大腸菌の遺伝子に葉緑体移行シグナルをつけてシロイヌナズナで過剰発現させました。この形質転換植物体では、リブロース1,5-ビスリン酸と酸素から生成される代謝経路上の中間体であるグリコール酸から3段階反応でグリセリン酸が生成されます。そのため、光呼吸で無駄なエネルギーの浪費を減らすことができます。

この形質転換植物体では、地上部および根の乾重量が増加しました。また、二酸化炭素の取り込みを上昇させ、可溶性の糖類の量も増加しました。GlyとSerの比を指標にして光呼吸を調べると、形質転換植物体では光呼吸量が減少していました。

この論文の結果から、光呼吸の活性を低下させることで、カルビンサイクルの活性を増加させ、生育を上昇させることができることが示されました。

第6回植物とメタボロミクスでは、フルクトース1,6-ビスリン酸ホスファターゼとセドヘプツロース1,7-ビスリン酸ホスファターゼを過剰発現させることによって、カルビンサイクルを活性化できることを紹介しましたが、今回の論文で光呼吸に着目することによっても光合成活性を上昇できることが示されました。

第2回植物とメタボロミクスから、植物の生産性向上のためのメタボロームについて紹介してきたことについてまとめます。

植物の生産性を向上させるためには、植物体中の有機窒素量を上昇させることが有効な手段であると考えられてきていて、窒素同化に関わる酵素を過剰発現することが試みられたが、有機窒素量の増加や生育の上昇は見られませんでした。

一方、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼを過剰発現することによって、有機窒素量を増加させることができたが、生育の促進は見られませんでした。

それに対して、カルビンサイクルや光呼吸を遺伝的改変することによって、二酸化炭素取り込みを上昇させ、生育の促進の効果が見られました。

これらの報告をまとめると、植物の生育を上昇させるには、窒素の取り込みや向き窒素から有機窒素への変換を改善するよりも、二酸化炭素の取り込みを強化することが有効であることが明確になりました。植物の生産性を上げるためには、カルビンサイクルに着目して、より生育が促進される植物作製を目指すのがよいと思われます。

二酸化炭素の取り込み活性が高く、生育がよい植物を作製することは、生産性の高い農作物の開発や地球上の二酸化炭素削減に応用できると考えられており、社会的に極めて重要な課題であると考えられております。

[1] Chloroplastic photorespiratory bypass increases photosynthesis and biomass production in Arabidopsis thaliana.
Nat Biotechnol. 25(5) 593-9, 2007
PubMed

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メタボロ太郎なう

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