こんにちは HMTの大賀です。
先日、研究所の前にある緑地で、白い花が風に揺られて咲いていました。私自身は初めて見る花だったのですが、ひとに聞いたところによるとソバの花だそうです。そういわれてみると、まだ青いながらも、どこかで見たことがある形の実がなっていました。
新ソバといえば、秋の味覚ですね。まだ冷めやらぬ残暑のせいで気付きませんでしたが、鶴岡は季節の移り変わりを迎えたようです。
さて、移り変わるといえば代謝です! (我ながら強引な…)
私たちの体の中でも、日々刻々と絶えることのない代謝の流れが続いています。食物として摂取したお肉がアミノ酸に分解されたり、脂肪になって貯蔵されるように、細胞の中では代謝分子がAからBへ、BからCへ、と形を変えてゆく一連の化学反応のつながりが存在します。
そういった反応速度、つまり代謝の流れ (flux) を調べる研究は古くから行われていますが、近年ではメタボロミクスの測定技術を使って、細胞レベルで代謝の流れを調べるという試みが行われています。
そのような解析分野は特に「Fluxomics(フラクソミクス)」と呼ばれて Metabolomics と区別されることがあります。Metabolomics を代謝の写真撮影に例えると、Fluxomics は代謝の動画撮影といったところでしょうか。
Fluxomics も Metabolomics と同じく発達中の若い研究分野ですが、この数年で幾つかの目立った成果が発表されています。
Sauer らは大腸菌の炭素代謝 (解糖系、TCAサイクル、ペントースリン酸経路) のフラックスについて、NMR を用いた解析を行っています。栄養条件を変えたり、特定遺伝子を欠失あるいは過剰発現させた時、代謝のどの部分がどの程度変化するのか、が調べられています。彼はその後も、枯草菌を用いて多数の遺伝子変異株の Fluxome を比較する研究を行い、その成果を発表しています。
2つの研究から、バクテリアの代謝は恒常性 (ホメオスタシス) を保つ性質がある、という結論が導き出されました。栄養環境の変化や遺伝子の変異が起こると、細胞はそれに応じて増殖や表現型の変化を見せます。
ところが、細胞内の代謝は一部の例外を除いて全体的には一定の状態に保たれていました。時には (細胞増殖に) 最適な条件を犠牲にしてまでも代謝の恒常性が維持されており、外観以上に、細胞の中身を安定させるメカニズムが重要であることが伺えます。
やはりヒトに限らず、生き物は中身で勝負、ということでしょうか。
Fluxomics は今まさに発展中の分野ですが、細胞全体の代謝を観察するレベルにはまだ及ばないようです。時間にせよ代謝にせよ、当たり前のように流れていくものほど見えないもの、なのかもしれませんね。
Sauer U, Lasko DR, Fiaux J, Hochuli M, Glaser R, Szyperski T, Wüthrich K, Bailey JE.
J Bacteriol. 1999 Vol 181, pp 6679-88
[PubMed]
Large-scale in vivo flux analysis shows rigidity and suboptimal performance of Bacillus subtilis metabolism
Fischer E, Sauer U.
Nat Genet. 2005 Vol 37, pp 636-40
[PubMed]