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ABC's of Metabolomics

第69回日本癌学術総会に参加しました


こんにちは、バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。大阪の大阪国際会議場とリーガロイヤルホテルで2010年9月2日(水)から24日(金)まで行なわれました第69回日本癌学会学術総会に参加してきました。

癌学会は規模が大きく、大小合わせると16のセッションが同時進行し、基礎から臨床まで非常に多くの研究発表が活発に行なわれていました。

がん研究は、非常に多岐にわたって細分化されており、基礎・臨床共にそれぞれの分野では研究が進んでいますが、それらの成果を統合して患者への治療の現場に活かされているとは言い難い状況でした。がん研究は、研究領域が広すぎるので、今の段階では仕方がないのかもしれません。

 
今回はオミクスががん研究にどのように活かされているかに注目して参加しました。

がん細胞内事象を解明するためにオミクスを用いた研究はほとんどなく、がんの早期発見のための血液バイオマーカー探索にプロテオミクスやグライコミクスを利用している研究が多く行なわれている印象を受けました。

現在、いくつかのがんの血液バイオマーカー候補を発見したばかりの段階で、今後は、それらについてより多くの検体で検証を行なっていくということでした。バイオマーカーによる診断というのは、1物質で高い診断能を持つのが理想であるはずですが、多物質のバイオマーカーを用いた診断アルゴリズムを作製するのが最も良いと考えている研究者も複数見受けられました。

メタボロームを用いたがんの研究は、慶応義塾先端生命科学研究所以外では、神戸大学医学部病因病態解析学分野の吉田優先生が「がん疾患におけるメタボローム解析の現状と将来」というタイトルで発表されていました。それぞれの臓器のがん患者と健常者から血液を採取し、メタボローム解析し、データを主成分分析することによって患者と健常者を見分けるというものでした。

今回の学会に参加して、バイオマーカー探索だけでなく、個別化医療にもオミクスは生かせるのはないかという印象を受けました。

薬剤の治療効果予測において、DNAマイクロアレイを用いた発現プロファイルを解析することによって、薬剤ががん治療に効くかどうかを判断する研究が行なわれていました。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を用いた治療では、EGFR遺伝子配列の変異により、あらかじめ治療効果が予測できます。他の薬剤でも同様なことができるのではないかというアイデアを基にDNAマイクロアレイを用いた研究が複数行なわれていました。

分子標的薬は非常に高価で、患者の経済的負担を減らすために、あらかじめどの薬剤が効くかどうか見分けられるのは重要な課題です。がんの発症及び進行は、ゲノム情報に加えて、生活習慣などの要因も影響を及ぼすため、治療予測の観点では、ゲノムシークエンスや遺伝子発現プロファイルよりもメタボロームデータの方がより有効なデータを出せる可能性を感じました。

治療予測に関しては、遺伝子発現プロファイルが現在主流ですが、メタボロミクスが切り込んでいかなければいけない分野であることを実感しました。将来、手術で切除したがん組織についてメタボロームデータを取得し、そのデータを基に薬剤の選択を含め、今後の治療方針を決定する時代が来るかもしれません。

来年は名古屋国際会議場で10月3日から5日まで開催されます。

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メタボロ太郎なう

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