研究開発本部の藤森です。今回は、バイオマーカー探索の対象となる「疾患の定義」についてお話したいと思います。
色々な場面で「疾患」「健常群」などの言葉は当たり前のように使われていますが、実は非常に曖昧な言葉です。実際に疾患に罹患しているか、していないかを鑑別する診断マーカーを探索する上で、それらをどう定義するかは結果にも影響を与える重要かつ難解な問題であり、その疾患の専門医と深く議論すべきです。
「疾患の定義」とは言いかえると健常群、疾患群をどの範囲に定めるかであり、
- 対象となる疾患の定義
- 健常群における健常の定義
の二つの側面があります。
これだけでは分かりにくいと思いますので具体的に考えてみましょう。
まずは、「対象となる疾患の定義」です。
例えば肝臓がんの血液中のバイオマーカー探索を行う場合、「肝臓がん」をどう定義すべきでしょうか?「肝臓がん」と一口に言っても、様々な切り口が考えられます。
例えば肝臓がんの原因は、主なものだけでも下記のようにいくつもあります。
- B型肝炎が進行して肝臓がんになった場合
- C型肝炎が進行して肝臓がんになった場合
- アルコール性脂肪性肝炎が進行して肝臓がんになった場合
- 非アルコール性脂肪性肝炎が進行して肝臓がんになった場合
- 転移により肝臓がんになった場合
原因だけでなく腫瘍のサイズにも差があり、大きな肝臓がんから小さな肝臓がんまであります。
原因、サイズ等を考慮せずまとめて肝臓がんの群とした場合、原因別にグループ化した場合、サイズの違いによりグループ化した場合、それぞれ候補として挙げられるマーカーは違うものになってきます。
もちろん肝臓がんだけでなく、糖尿病や精神疾患のようなヘテロ性の高い疾患では同様の問題が生じます。
では、「健常群の健常の定義」はどうでしょうか。
肝臓がんの血液中のバイオマーカー探索において、肝臓疾患の一つである肝硬変は群としてどのように扱うべきでしょうか?
健常でも肝臓がんでもないので、肝硬変の患者の検体はバイオマーカー探索の試験対象として外す、肝臓がんではないので健常群に含める、新たに肝硬変の群を設定する等の選択肢があります。これは、マーカーが診断キットとして製品化された後の臨床現場のことも考慮する必要があります。
また、健常群を定義するために、血液検査の生化学データのみを検討することで健常群とみなしてよいかも重要な問題です。その場合、例えば「肝臓がんではないが大うつ病性障害である患者」は健常群に含まれる可能性があることを心に留めておかなければなりません。
ただ「健常群と疾患群のサンプルを比較する」とバイオマーカーが見つかるというわけではなく、上記の点を含めた多くの事項を考慮した上で試験を設計することで初めて実用性が高いマーカーを見つけることができるのではないでしょうか。