バイオマーカー

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バイオマーカー探索 その8 – 大規模データの多変量解析に向けた絶対定量の必要性

研究開発本部の藤森です。約1年間バイオマーカー探索についてのコラムを書いて来ましたが、今回で最終回です。

疾患バイオマーカーの探索を目的として研究を行う場合、メタボローム解析から得られるデータは通常相対定量値です。しかし臨床の現場では「物質Aの血中濃度がXμM以上(以下)であればその疾患に罹患している(していない)」と判断されるので、この時点では絶対定量値が算出できる必要があります。…

バイオマーカー探索 その7 – 網羅解析で顕在化するリスク

研究開発本部の藤森です。今回は、疾患バイオマーカー探索におけるメタボロミクスデータのリスクについてお話したいと思います。

健常者群とある疾患の患者群において、疾患バイオマーカーとなる代謝物質を液体クロマトグラフィー-飛行時間型質量分析計(LC-TOFMS)あるいはキャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計(CE-TOFMS)によるメタボロミクスを用いて探索した場合、メタボロミクスデータとして、ピークの保持/移動時間、質量電荷比および面積を得ることができます。

健常者群と患者群で面積が大きく異なるピークが見つかったら、そのピークの保持/移動時間と質量電荷比の情報に基づいてそれがどの代謝物質に相当するかを決定し、それがバイオマーカー候補となります。

このとき注意しなくてはならないのが、ピークが一つであったとしても、保持/移動時間も質量電荷比も同じの2つ(以上)の代謝物質に由来している可能性があることです。

バイオマーカー探索 その6 – 代謝物質の安定性

研究開発本部の藤森です。今回は疾患バイオマーカー探索における代謝物質の安定性の問題に関してお話ししようと思います。

ゲノムは基本的に安定なので、塩基配列の差異をバイオマーカーとして評価する場合、異なる時期に採取した血液検体のゲノムシークエンシングの結果を比較するのは比較的容易であると考えられています。

凍結保管血液中のゲノムは安定かつ定量性が問われないため、異なる時期に行ったゲノムシークエンシングの結果は比較可能です。それぞれ血液検体を採取した時にゲノムシークエンシングを行いその結果を比較しても、採取した血液検体を保管しまとめてゲノムシークエンシングを行いその結果を比較しても、結果に違いはないと考えられています。

一方、代謝物質の定量性をバイオマーカーとして評価する場合、凍結保管血液中の代謝物質は安定でなかったり、異なる時期に行ったメタボローム解析データの相対定量値を比較できないといった、解決しなければならない課題が生じます。…

バイオマーカー探索 その5 – 試料の選択

研究開発本部の藤森です。今回は疾患バイオマーカー探索の試料の選択についてお話ししたいと思います。何を試料として選択するかは、マーカーの発見だけでなく、その後の診断キットの開発の成否にも大きな影響を及ぼします。

メタボロミクスによる疾患マーカー探索の論文を見てみると、試料として、血液(血漿、血清、全血)、尿(早朝尿、随時尿、蓄尿)、脳脊髄液、唾液、汗等が選択されています。…

バイオマーカー探索 その4 – 検体の取り扱い

研究開発本部の藤森です。今回は、疾患のバイオーカーを探索する際の検体の取り扱いについて、考えてみたいと思います。

前回話題にした通り、バイオーカーの対象としては、遺伝子塩基配列、mRNA、タンパク質、代謝物質等があります。遺伝子塩基配列以外は、その特性上、様々な要因によって分解あるいは修飾を受け、異なる物質に変換されてしまうリスクがあります。そのため生体内の物質量を正確に検出するために、検体の取り扱いには特に注意を払う必要があります。

例えば血液を用いてバイオーカー探索をする場合の保管条件について、大きく分けて以下の2つのフェーズに分けられます。…

バイオマーカー探索 その3 – 探索の対象

研究開発本部の藤森です。今回は、何を対象にバイオマーカーを探索すべきか?についてセントラルドグマに着目して考えてみたいと思います。…

バイオマーカー探索 その2 – 疾患の定義

研究開発本部の藤森です。今回は、バイオマーカー探索の対象となる「疾患の定義」についてお話したいと思います。

色々な場面で「疾患」「健常群」などの言葉は当たり前のように使われていますが、実は非常に曖昧な言葉です。実際に疾患に罹患しているか、していないかを鑑別する診断マーカーを探索する上で、それらをどう定義するかは結果にも影響を与える重要かつ難解な問題であり、その疾患の専門医と深く議論すべきです。

「疾患の定義」とは言いかえると健常群、疾患群をどの範囲に定めるかであり、

  • 対象となる疾患の定義
  • 健常群における健常の定義

の二つの側面があります。

これだけでは分かりにくいと思いますので具体的に考えてみましょう。…

バイオマーカー探索 その1 – 対象となる疾患

研究開発本部の藤森です。今回は、バイオマーカー探索の対象となる疾患について考えてみたいと思います。

診断法の開発を目的とした疾患バイオマーカー探索を成功させる上で、3つの大きなポイントがあります。それは、…

【研究者インタビュー】名古屋大学大学院医学系研究科 伊藤嘉規講師

名古屋大学大学院医学系研究科で小児医療について研究をなさっている伊藤嘉規先生にお話を伺いました。

伊藤先生は主に小児科学、ウイルス学の分野で研究を続けていらっしゃいます。2010年にHMTメタボロミクス研究助成を受賞された鳥居ゆか先生も伊藤先生の研究室で研究されています。

―初めに、研究課題について簡単に説明していただけますか?

我々の研究室では主に基礎研究、臨床研究の二つの柱に沿って研究を行っています。…

メタボロミクスを何が変えたか?

研究開発本部の藤森です。「メタボロミクスは何が変わったか?」に続いて、今回はメタボロミクスの進化の契機となった論文についてご紹介します。

前回のブログでは、メタボロミクスは「ただ測って可能性を示唆するだけ」の段階から「新しい生物学的知見を明らかにする段階」まで、学問として進化してきたことに触れました。それでは、その契機となったものは何だったのでしょうか?…

メタボロ太郎なう

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