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ABC's of Metabolomics

バイオマーカー探索 その3 – 探索の対象


研究開発本部の藤森です。今回は、何を対象にバイオマーカーを探索すべきか?についてセントラルドグマに着目して考えてみたいと思います。

疾患のバイオマーカーとしては、主にセントラルドグマの各段階、つまり遺伝子における塩基配列の変異(遺伝子変異)、mRNA、タンパク質・ペプチド、代謝物質が知られています。例えば、抗がん剤投与有効性のマーカーとしてEGFR遺伝子の変異、糖尿病のマーカーとして血中のヘモグロビンA1c量が挙げられます。

一般的にバイオマーカーを探索するプロセスは、遺伝子変異、mRNA、タンパク質・ペプチド、代謝物質などの中から一つ対象を選択し、健常群と疾患群の検体について対象物を測定・解析し、健常群と疾患群で差があるものをマーカー候補とします。その候補の中のほんの一部が、診断薬として実用化されています。

生体情報は、セントラルドグマに従って遺伝子からmRNA、タンパク質・ペプチド、代謝物質の順に伝達され、最終的に表現型としてアウトプットされます。表現型に最も近いのが代謝物質、最も遠いのが遺伝子です。

遺伝子は表現型から最も遠いので、遺伝子に何か違いがあっても、情報がその下流に伝達される過程で違いが解消され、表現型に反映されない場合は多々あります。ホメオスタシス(恒常性)ですね。

同様に、mRNA量に違いがあってもタンパク質・ペプチド量、代謝物質量に違いが見られないケースも多々あります。

つまりセントラルドグマの観点から見ると、最下流に位置する代謝物質量の違いが表現型に反映される可能性は相対的に高く、したがって表現型(の一つ)である疾患の指標としては遺伝子よりも代謝物質に着目する方がより効率的にバイオマーカー探索を進められる可能性も高くなります。

例えば、精神疾患の研究では、一卵性双生児の一人だけが罹患し、もう一人は罹患しない場合が多く報告されています。例えばうつ病のなりやすさのうち、遺伝要因によって説明できる部分は3割から4割で[1]、遺伝子を調べることで精神疾患のバイオマーカーを同定するのは難しいと言われています。

さらに、精神疾患のゲノム研究は多く行なわれていますが、研究グループ間で結果が一致するケースは非常に少ないです[1]。
その理由は、遺伝的背景ではなく生活環境が発症の主な要因であり、エピジェネティックな変化が精神疾患の発症に関与しているためと考えられています。

それに対し、代謝物質からバイオマーカーを探索すれば、上記の課題は克服されます。

遺伝的要因が大きく関わる疾患、例えば急性リンパ性白血病等の小児のがんのマーカー探索は遺伝子変異を対象とすべきであり、遺伝的背景に食習慣などの生活環境が加わった複合的効果によって発症する疾患のバイオマーカーは代謝物質から探索するのが適していると言えるでしょう。

目的のバイオマーカーを見つけるには、疾患の背景によって探索対象を選び分ける必要があるということですね。

バイオマーカーの話題とは離れますが、今回文中で参考にしているのは下記の本です。研究者向けの内容で、うつ病のことを学ぶのにとても良い本です。

[1]

うつ病の脳科学

うつ病の脳科学
著者:加藤忠史
価格:798円(税込、送料込)
楽天ブックスで詳細を見る

ちなみに、一般の方には下記の本がオススメです。

うつと気分障害

うつと気分障害
著者:岡田尊司
価格:840円(税込、送料込)
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メタボロ太郎なう

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