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医薬学

バイオマーカー探索 その5 – 試料の選択


研究開発本部の藤森です。今回は疾患バイオマーカー探索の試料の選択についてお話ししたいと思います。何を試料として選択するかは、マーカーの発見だけでなく、その後の診断キットの開発の成否にも大きな影響を及ぼします。

メタボロミクスによる疾患マーカー探索の論文を見てみると、試料として、血液(血漿、血清、全血)、尿(早朝尿、随時尿、蓄尿)、脳脊髄液、唾液、汗等が選択されています。


しかし、例えば脳脊髄液からマーカーを発見したとしても、その採取は被験者に大きな負担がかかるため、実用化には大きな障害があります。

一方で被験者の負担の少ない唾液や汗は、クオリティーコントロールが難しく、高い再現性でメタボロームデータおよびマーカーのデータを得るのは容易ではありません。

それらに比べると血液や尿は疾患マーカー探索の試料として適していると考えられますが、対象とする疾患に罹患したことによる代謝の変化が、血液に反映されるか、尿に反映されるかは疾患によるので、どちらにより反映されやすいかを考えて選択する必要があります。

例えば脳疾患が尿のメタボロームに影響を及ぼす可能性は低いと推測されますが、腎臓疾患であれば尿のメタボロームに大きな影響を及ぼす可能性は高く、必然的に尿から有望なバイオマーカーが発見される可能性も高くなります。

また血液の場合は血漿、血清、全血のどれを選ぶかによってもメタボロームデータは違ってきます。

前処理の違いによる代謝プロファイル弊社のThe Proceedings of Metabolomicsで、全血、EDTA・2Na血漿、クエン酸血漿、ヘパリン血漿、フッ化ナトリウム血漿、血清のメタボロームデータを比較していますが、それぞれ代謝プロファイルが異なり、PCAにかけてみると[EDTA血漿・2Na血漿、クエン酸血漿] [ヘパリン血漿、血清] [フッ化ナトリウム血漿] [全血]の4グループに分かれます(右図)。

特に血漿は使用する血漿分離剤(EDTA・2Na、EDTA・2K、クエン酸、ヘパリン、フッ化ナトリウムなど)によって作用点が異なるため、同じ血漿であっても代謝プロファイルは異なります。フッ化ナトリウムは解糖系酵素エノラーゼの働きを抑制し、EDTAとクエン酸は血中のカルシウムをキレートすることで種々の酵素反応を阻害します。実際に、弊社が開発したうつ病診断マーカーのエタノールアミン酸は処理方法によって検出濃度が異なります。

疾患マーカー探索を行う上で何を試料として選択するかは、プロジェクトの成功を左右する非常に重要な問題です。

例えば、エタノールアミンリン酸は尿からも検出されますが、尿中には血液と比較して高い濃度で存在するため細かな変化が見えにくく、もしかしたらマーカーとして候補に挙がっていなかった可能性もあります。

何が最適かはケースバイケースで絶対の回答はありませんが、これまで得られた知見を分析することによって、より適した試料を選択していくことが求められます。

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メタボロ太郎なう

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