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インタビュー

【研究者インタビュー】徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部 大政健史教授 (後篇)


徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部大政健史先生へのインタビュー、後篇です。前篇はこちら

―今後どういった方向性で研究を進めて行かれる予定ですか?

ヘテロジェネイティ、不均一性を大きな主眼点として置いています。

微生物やヒトの初代細胞は細胞の性質が割ときちんとして一つであり、ゲノムも一つです。そもそも混ざりものじゃないんです。一方、CHO細胞のように細胞株を樹立している、つまり、無限に増えることが元来無いものが無限に増えるようになった細胞の場合は、染色体の数にも不均一性、つまり分布があります。たとえ分布のないものであっても培養をしている間に分布ができます。

分布があるからこそ生産性のいい株を取れるという面もあれば、また逆に不安定性の原因にもなっていると考えられています。なぜ分布ができるのか、または分布ができたものをどうやって操っているのか?全体として分布があるものをどうやって扱ったらいいのか?ということに非常に興味があるんです。

代謝物質の解析も、あくまでも見ているのは細胞の平均的な状態なので、その平均的な状態からどれくらい本来の本質に迫れるのか、不均一なものを不均一としてどうやって考えていったらいいのか、そこに対する回答を見つけていきたいなと考えています。その意味では一細胞解析とか、ひとつひとつ細かく見るとどうなるのかということにも大変興味があります。

また、解釈するだけでなく、その次の段階までやりたいですね。代謝物質の解析に関する僕の研究で、唯一次の段階まで行けたかなと思うのは、ハイブリドーマのメタボリックフラックスの解析から律速となりえるパスを見つけて、さらにそこから律速を解除すると考えられる中間物質を添加してやることで最終的にエネルギーがたくさん得られて抗体の比生産速度が上がり、たくさん抗体を作らせることができるようになった、という研究ですね。

いわゆるオミクス技術には一般的に言えることだと思うんですが、オミクスではたくさんデータが出てくるので、解釈はできるんです。これはこうかな、この代謝がこうかな、と。でも解釈した後それを使って何かをしたいから解釈するわけじゃないですか。得られたデータの解釈から次、どれを足したらいいのか、どれを引いたらいいのか、どれをどのタイミングでどうすればいいのか、厳密な解釈だけではない、実際に作ってみるという試みは必要だなと思っています。

―先生のご研究のモチベーションはなんですか?

大政先生5_1
大学でしかできない研究で社会に貢献したいという思いはありますね。それがやっぱり生物工学という学問だと思うんです。

生物工学は、生物科学(バイオサイエンス)と分かれてまだ日が浅く、その違いを認識している人も少ないように思いますし、その概念もまだしっかりとは固まっていません。しかしやはり生物工学はテクノロジーである生物科学とは違ってエンジニアリングであり、いかに社会に貢献できるかというところが重要なんです。

企業ではできない、事細かだけれども役立つ研究、こんなところも大学で調べてくれているからこんな風に役立つんだ、と思ってもらえる研究がしたいですね。そういう意味では必ずしもインパクトファクターの高い雑誌に掲載されるとかそういうことで測れる学問ではないんですよね。

例えばタンパク質を5g作りたいとき、1年かかって5gできるのと、3日で5gできるのでは大きな違いがあります。そういった時間的な概念や、ある細胞が何個あればどんな機能を持って、どれだけの薬物が代謝されて、どれだけの人が助けらるか、または何リットルの血液が処理できるか、などの定量的な視点は生物科学にはなく生物工学に必要とされる点だと思います。

これは再生医療でもそうだと思うんですよね。このような細胞を取り出してきて分化すると、ある遺伝子が発現してきますよ、と論文には記載がありますけど、じゃあその細胞を何個入れればどれだけの機能が得られて、どれくらいの治療効果があるのか、そういう定量的なところまでは案外バイオサイエンスを専門とされてる方たちはやらないと思うんです。

泥臭いところですし、そういった研究は企業の中では役立ててもらえても、研究者としては評価されにくいです。企業の方は論文を参考にして実際のプロセスに役立てますが、論文としてアウトプットを出すわけではありませんので、引用回数やインパクトファクターでは測れません。つまり有名誌に載ったか、何回引用されたかだけを評価の基準にすると社会で本当に必要とされているものではなくて学問のための学問になっていきます。もちろん私たちも学問としてやってはいるのですが、できるだけ社会で基盤的に問題となっている共通のものをサイエンティフィックに掘り起こして解決したいと思っています。

―そういった視点を持たれたきっかけはあったんですか?

私の卒業した学科がそのような志向があったという歴史的経緯はあるかなと思います。大阪大学工学部の醗酵工学科を卒業したんですが、醗酵工学科の前身は、お酒を造る技術的なバックグラウンドについて研究する高等教育機関を作ってほしいという灘の酒造メーカーによる要請から設立されたという経緯があります。そういう点で、産業側の視点が十分に入っているのかなという気がします。

―今後日本の抗体生産は世界で戦っていけますか?

日本は個々の研究開発能力が非常に高いと思います。また、専門性だけを高めるようなキャリアパスを持つ欧米とは違い、日本の企業では生産をやっていた人が精製をやったり、品質管理をするということがよくあり、色々なことを学べます。

現在バイオプロセスにおける課題は、自分が担当している部分だけではなく、あらゆる段階の色々な技術に関連して起こっています。なので、上流で困っていることを下流で解決したりとか、下流で困っていることを上流で解決したりするために、部門を越えて融合できるという素地が日本にはあるんじゃないかなと思います。そういうチームワークが抗体生産に限らずバイオテクノロジーで何か物を作るときに日本の得意な分野ではないでしょうか。現在進めている経産省のプロジェクトでも同じことをコンセプトとして考えています。

日本のものつくりは伝統があります。色んなメーカーがあり、円高になっても強い。医薬品もたくさん日本で作られていますので、そういう意味で抗体生産は日本に向いている分野と言えるかもしれません。

―ありがとうございました。

(2014年3月 インタビュー・写真:井元淳)

インタビューイプロフィール
大政 健史(オオマサ タケシ)
1986年 大阪大学工学部醗酵工学科 卒業
1992年 大阪大学大学院工学研究科醗酵工学専攻博士後期課程 修了
1992年 大阪大学工学部応用生物工学科 生物化学工学講座 助手
1998年 University of Rochester, NY 客員研究員 (Dept. of Chemical Engineering)
2002年 独立行政法人産業技術総合研究所 ティッシュエンジアリング研究センター 客員研究員
2005年 大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻生物工学講座生物化学工学領域 助教授(2007より准教授)
2010年~ 徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部ライフシステム部門生命機能工学 教授

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