こんにちは HMTの大賀拓史です。
今日は「桃の節句」、ひな祭りですね。日本全国の家庭で、あるいは展示場で、たくさんのひな人形が、久しぶりの晴れ舞台に上がっていることでしょう。こちら庄内でも「庄内ひな街道」として、ひな人形の展示イベントが開催されています。
人間よりはるかに長い時間を過ごした昔のものから、ちょっと変わったスタイルのものまで、パンフレットを片手に鑑賞をしていると、自分でも意外なくらいに魅入ってしまうことができました。
こんな私ですが、昔、それこそ周りの女の子がひな人形を飾っていた時分は、人形というものに全く興味がありませんでした。自動車や飛行機といった機械モノの模型は大好きだったのですが、生き物、特にヒトの模型 (というのもおかしな言い方ですが) はむしろ苦手なくらいで。今となってはその理由も良くわかりませんが、とにかく周りの男友達と一緒に、「女はよく分からん」などと言っていたように思います。
成長した後は言わずもがな、男と女の間には幼い頃からも、大きな隔たりがあるのでしょうか?この深大なるテーマに対して、実はあるメタボローム研究が興味深いデータを出しています。
この研究では、生後3ヶ月から4歳までの59人の健康な児童を対象に、血清のメタボローム解析が行われています。測定にはUPLC-MS を用い、代謝分子の中でも脂質に注目した解析が行われました。それぞれの子供から、期間をおいた(平均3ヶ月)解析を行い、その結果を確率モデルに反映させることで、長期的な代謝変動に関する考察が行われています。
解析の結果、血中の脂質代謝プロファイルが成長と共に、また性依存的に変化することが分かりました。生後1年期ごろまではリン脂質や短-中鎖脂質の変化が大きく、その後2年期ごろには長鎖脂質が増加する、といった変化が得られています。また男女の結果をモデルに基づいて比較すると、年代があがるにつれ、その違いが徐々にはっきりする傾向が得られたそうです。例えば、女児においてはスフィンゴミエリンやリゾホスファチジルコリンといった脂質成分が特異的に増加していました。
興味深いことに、生後一年期までの早期に変化する脂質成分のほとんどは、血中に多量に存在する成分ではなく、むしろ「マイナー」な成分だったそうです。著者らは、これらの成分には、感染や食事などの出産後の外部環境の変化と関わるものが含まれているのではないか、と考察しています。また、女児で多い傾向が得られたスフィンゴ脂質に関しては、女性ホルモンであるエストロゲン代謝と関係する可能性もあるそうです。
今回の研究では、長期的な代謝変化の考察に確率モデルを用いて取り組んでいますが、実際に大規模かつ長期的なコホート研究が可能になれば、児童の成長や性差、あるいは健康状態に関しても、代謝からもっと多くの情報を得ることができることでしょう。
ひな祭りのそもそもの由来には、災いや穢れを紙人形に引き受けてもらって川に流す、流し雛という行事があります。こと小さな子供の健康な発育に関しては、男女を問わず、そしていつの時代でも、変わらぬ親の願いです。伝統的な行事はもちろん、科学技術がその願いを叶えられるようになる日がくるといいですね。
Nikkilä, J. et al. (2008) Mol. Syst Biol. 4, 197
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