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ABC's of Metabolomics

肥満遺伝子はあるのか?


こんにちは、バイオメディカルグループの篠田です。私は子育て5年目なのですが、週末も子供と格闘する時間が多く、運動する時間がとれず(言い訳?)体重が増加傾向なのが目下の懸案事項です。もし自分が遺伝的に肥満体質とわかれば、もっと危機感を持つのでしょうが、そんな生まれもっての「肥満遺伝子」はあるのでしょうか?

FTOという遺伝子を皆さんご存知でしょうか?その名前も「Fat mass and obesity associated gene」つまりは「脂肪量と肥満に連関する遺伝子」です。2007年のサイエンス誌[1]において、BMI値と相関する遺伝子(※1)として報告され、今週号のNatureにも結晶構造が載る[2]など、世界的に注目されている遺伝子です。
※1 正確に言うと、BMIと強く相関するSNPマーカーの近傍にFTOがあった

しかし、2007年のサイエンス誌の結果は、「追試に成功した!」という報告と、「再現できなかった!」という報告が相次ぎ、賛否両論です。

欧米人集団においては、肥満と糖尿病は強く関係していることから、FTOは2型糖尿病のリスク予測マーカーとしても期待されました。しかし、アジア人ではむしろやせ型の人間に2型糖尿病が多いことから推察できるように、関連を否定する報告も多いです[3, 4]。

特に注目すべきは、University College Londonのグループが今年に入って報告した、5,535人を追跡した前向きコホート研究の結果[5]で、FTO(※2)を含む20種類のSNPマーカーを総動員した糖尿病発症予測は、性別, 年齢, 家族歴, BMI, HDLコレステロール, トリグリセリド値などの「表現型ベース」の指標(フラミンガム・スコア)の精度に全く及ばず、フラミンガム・スコアにSNPの結果を組み合わせても、統計的有意な判別能の上昇は見られなかった、とのことです。
※2 この論文では、rs1421085がタイピングされていますが、rs1421085は2007年に報告されたrs9930506と完全連鎖の関係にあります。

このように、”これをみれば肥満や糖尿病がわかる!”という確固とした遺伝子は無く、むしろ、健康診断のトリグリセリドやコレステロール値を気にする方が、自分の肥満対策には良さそうです。分子診断も温故知新、ということでしょうか。

個人的には、「表現型ベース」の指標が予想以上に正確なことから、表現型に近いメタボロームに切れ味鋭い分子マーカーが眠っているのでは?と思っています。

[1] Frayling TM, Timpson NJ, Weedon MN, Zeggini E, Freathy RM, Lindgren CM, Perry JR, Elliott KS, Lango H, Rayner NW, Shields B, Harries LW, Barrett JC, Ellard S, Groves CJ, Knight B, Patch AM, Ness AR, Ebrahim S, Lawlor DA, Ring SM, Ben-Shlomo Y, Jarvelin MR, Sovio U, Bennett AJ, Melzer D, Ferrucci L, Loos RJ, Barroso I, Wareham NJ, Karpe F, Owen KR, Cardon LR, Walker M, Hitman GA, Palmer CN, Doney AS, Morris AD, Smith GD, Hattersley AT, McCarthy MI. Genetics of Complex Traits, Institute of Biomedical and Clinical Science, Peninsula Medical School, Magdalen Road, Exeter, UK.
A common variant in the FTO gene is associated with body mass index and predisposes to childhood and adult obesity.
Science. 316(5826) 889-94, 2007
PubMed

[2] Han Z, Niu T, Chang J, Lei X, Zhao M, Wang Q, Cheng W, Wang J, Feng Y, Chai J.
Crystal structure of the FTO protein reveals basis for its substrate specificity.
Nature. , 2010
PubMed

[3] Xi B, Mi J.
FTO polymorphisms are associated with obesity but not with diabetes in East Asian populations: a meta-analysis.
Biomed Environ Sci. 22(6) 449-57, 2009
PubMed

[4] Song Y, You NC, Hsu YH, Howard BV, Langer RD, Manson JE, Nathan L, Niu T, F Tinker L, Liu S.
FTO polymorphisms are associated with obesity but not diabetes risk in postmenopausal women.
Obesity (Silver Spring). 16(11) 2472-80, 2008
PubMed

[5] Talmud PJ, Hingorani AD, Cooper JA, Marmot MG, Brunner EJ, Kumari M, Kivimäki M, Humphries SE.
Utility of genetic and non-genetic risk factors in prediction of type 2 diabetes: Whitehall II prospective cohort study.
BMJ. , 2010
PubMed

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