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ABC's of Metabolomics

生体分子は特許になりうるか?


こんにちは、バイオメディカルグループの篠田です。今回は特許の話をします。みなさんは、遺伝子配列は特許になると思いますか?アメリカ連邦地方裁判所によると、答えは「NO」です。

1ヶ月前の判決になりますが、代謝物バイオマーカーにも影響を及ぼす可能性のある重要な判決が出ました。3月29日、アメリカ連邦地裁の Robert Sweet 裁判官は、ミリアド社 (Myriad Genetics) の保有する、乳がんおよび卵巣がんのリスク評価に用いるBRCA1およびBRCA2の遺伝子変異の特許無効の判決を下しました。

判決理由 (opinion) は153ページ(!)にもおよび、法律の専門家でない私が全てを読み解けるわけではないですが、重要だと考えられるポイントは以下になります。

  • 特許可能な対象・発明 Patentable subject matter は、自然の産物から顕著に異なって markedly different いなければならない。
  • 根本的に fundamentally 異なる産物を創造しない程度の変化では、自然の産物は特許可能な対象・発明とならない。自然の産物の精製は、それだけでは特許可能な対象としては不十分である。


Patentable subject matter must be ‘markedly different’ from a product of nature…products of nature do not constitute patentable subject matter absent a change that results in the creation of a fundamentally new product…‘purification’ of a natural compound, without more, is insufficient to render a product of nature patentable.



米国の特許法は、発明を以下の4つの法定カテゴリに分けています。

  • 組成物の発明 (Composition of Matter)
  • 方法の発明 (Process もしくはMethod)
  • 装置の発明 (Machine)
  • 製造物の発明 (Article of Manufacture)


ミリアド社の特許は、このうち、方法の発明および組成物の発明として請求項を掲げていますが、これらはすべて(!)、以下の論理で特許無効とされています。

方法の発明: 単に2つの遺伝子配列を比べる方法では、単なる「analyzing」と何ら異なっていると言えない。遺伝子を精製し、配列を決定する方法が「transformation」を含む(※)としても、この「transformation」は「データを収集するステップ」以上のものは何も構成しない。

※ 米国特許法において、「方法の発明」として認められるためには、‘Machine or Transformation’ と呼ばれる基準、すなわち、その方法が、(1) 慣習上明白ではない特定の装置 Machine において実装されているか もしくはその方法が (2) ある品物を他の事物・状態へと変換 Transformation するか、を満たさなければならない。

組成物の発明: DNAを精製するかどうかは究極的には技術的制約の問題であり、診断目的でDNAを精製する必要がない場合もありうる。一方、DNA配列は、精製したDNAをミリアド社が主張する様々な目的に応用するために常に必要とされる、決定的な特徴である。よって、精製単離した該DNAを診断目的等で利用することは、自然状態のDNAと精製した該DNAとの間に明確な差異を見いだすとは言えず、自然の産物であってはならないという特許可能な対象・発明の要件を満たさない。

この判決理由からすると、代謝物質やタンパク質のバイオマーカーが発見されても、自然状態と ”Markedly different” ではないと判断され特許無効となってしまうのでしょうか?この判決により、ミリアド社の株価が一時5%以上も値を下げるなど、バイオ・テクノロジー業界に大きなショックを与えました。

我々、バイオ・ベンチャー界の人間からすると、バイオへの投資を冷やし、個別化医療や分子診断のイノベーションを妨げる要因にもなりかねない判決と感じますが、皆さんはいかがでしょうか?この特許を利用した遺伝子検査は、すでに日本でも事業化されており (ファルコバイオシステムズ社)、そちらへの影響も気になります。

この判決は引き続き、日本の知的財産高等裁判所にあたる「米国連邦巡回控訴裁判所」により審理される予定です。

[1] Testing time for gene patents.
Nature. 464(7291) 957, 2010
PubMed

[2] Breaking: District Court Rules Myriad Breast Cancer Patents Invalid

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メタボロ太郎なう

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