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ABC's of Metabolomics

夏のたのしみ ― ビールのメタボロミクス


こんにちは、HMT の大賀です。なんだかご無沙汰しておりました。

こちら鶴岡では、庄内名物の「だだちゃまめ」が美味しい季節になりました。見た目は普通の枝豆なのですが、一口食べるとその濃厚な味わいにびっくりですよ。お取り寄せで味わうことも出来るようですが、できれば現地で夏の景色と一緒に楽しんでいただきたいものです。

さて、枝豆といえばそのパートナーは、やっぱりビールでしょうか。いやぁ、ビールが美味しい季節になりましたね。

ご存知の方も多いかと思いますが、ビールは酵母の醗酵、つまり代謝によって生み出される飲み物です。原料のでんぷんが分解されて小さな糖が作られると、酵母はそこから化学的なエネルギーを取り出すための代謝を動かします。

その際に、酵母にとっての副産物としてエタノールが作られるのですが、人間にしてみればこれこそが大いなる恵み。ビールが発見されたのは古代エジプトという説があるそうですが、その時代の人達にはそんな原理なんて分かってなかったでしょうね。醗酵食品の多くに当てはまるのことなのですが、初めてビールを口にしたチャレンジャーは、本当に偉大です。

当然ながらビールの魅力はただ酔わせてくれるだけではありません。世界中にはたくさんの種類のビールがあって、それぞれに独特の風味がありますよね。それぞれのビールの違いは、それぞれの原料・酵母種・発酵条件によって作られる代謝産物の違い、とも言い換えることが出来ます。かつては職人が経験と勘によって見分けていたその違いですが、近年では、その分野にもオミクスが活躍するようになりました。
英国の National Collection of Yeast Cultures の研究グループは、遺伝型と代謝プロファイルの2つの指標を使って9種類の酵母株の分類を行っています。それぞれの分類から得られた結果は完全には一致しておらず、遺伝型が似ている酵母でも表現型としての代謝は大きく違うことが確認されたそうです。また、代謝プロファイルを指標にした結果では、上面発酵 (エール) 株と下面発酵 (ラガー) 酵母、といった具合に、より生物学的な解釈に近い分類が得られたとのことでした。

一方、日本では昨年大手メーカーの研究グループがメタボロームを育種に活用した研究成果を発表しています。ビールの香味に関与する硫黄系化合物の代謝に関してマイクロアレイとメタボローム解析を行い、目的とする化合物を高生産するモデル酵母の育種に成功しています。その後、上記の結果に基いた変異株スクリーニングを行いうことで、実生産可能な変異株にも成功した、とのことです。学術的な研究成果に留まらずに実用的な段階まで持っていくことが出来たという点で、大きな成功を収めた研究例だと言えます。企業だけに最新の成果がどこまで進んでいるか計り知れないところですが、その分、かえって期待が膨らみますね。やがて「メタボロミクスから生まれたビール」が市場に出る、というのが私の予想、というより願いです。

ビールを発見した人も偉大ですが、より良いビールを求める技術者もまた同じく偉大です。今夜はそんな多くの人達と、そしてさらにたくさん (?) の酵母に感謝して、ビールを楽しみたいと思い…あぁ、夏だけに、夜までが長い。

そういえば…私が愛読している「もやしもん」という漫画があるのですが、「農大で菌とウイルスとすこしばかりの人間が右往左往する物語」で、ストーリーと一緒に、食品・飲料を中心とした醗酵に関する勉強を楽しむことが出来ます。その最新刊単行本(8巻)がビールについてのお話で、これまた大いに勉強をしつつ楽しむことが出来ました。これまでお会いした醗酵技術関係の方の中にも愛読家が多いようで、既にファンの方もいらっしゃるかとおもいますが、まだ読んだことがないという方にはぜひお勧めです.

[1] Metabolic footprinting as a tool for discriminating between brewing yeasts.
Pope GA, MacKenzie DA, Defernez M, Aroso MA, Fuller LJ, Mellon FA, Dunn WB, Brown M, Goodacre R, Kell DB, Marvin ME, Louis EJ, Roberts IN. Yeast. 2007,24(8):667-79.
[PubMed]

[2] Development of bottom-fermenting saccharomyces strains that produce high SO2 levels, using integrated metabolome and transcriptome analysis.
Yoshida S, Imoto J, Minato T, Oouchi R, Sugihara M, Imai T, Ishiguro T, Mizutani S, Tomita M, Soga T, Yoshimoto H. Appl Environ Microbiol. , 2008, 74(9):2787-96.
[PubMed]

[3]

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メタボロ太郎なう

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