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ABC's of Metabolomics

いまアツいメタボローム解析とは? -代謝フラックス解析④


こんにちは、B&Mの大賀です。代謝フラックスにおけるメタボローム解析の活用について、今アツい論文をお届けしています。今回は、最近発表された研究成果の中から、とりわけ私をアツくしてくれた論文を4報ご紹介したいと思います。

一報目は、同位体ラベルを使った培養細胞の研究です。

メタボローム解析では、ある代謝分子レベルが上がったときに、果たしてこれは生産が増えたのかそれとも消費が減ったのか?という問題がよく起こります。Mungerらは、ウイルスに感染させたヒト細胞にラベル基質を与えることで、解糖系中間体の増加が、グルコースからの流入の促進であることを確認しました。

また、各代謝分子の絶対量(プールサイズ)と代謝フラックスの結果を合わせることで、活性化された解糖系産物はTCAサイクルではなく脂肪酸生合成に使われていることを発見しました。この脂肪酸合成経路の酵素活性を阻害するとウィルスの増殖が抑制されたため、これを標的とした新しい抗ウィルス薬の創出が期待されます。

2報目は、同位体ラベル実験において、与えるラベル分子種あるいは同位体原子の位置によって、「見やすい」代謝が違ってくる、という論文です。

Metalloらは、動物培養細胞に様々なラベル化グルコース/グルタミンを添加し、目的の代謝経路を観察するにはどのラベル分子が適しているか、という検証を行っています。データの信頼区間幅をもとに評価したところ、例えば解糖系には2,3位ラベル化グルコースが良く、一方でTCAサイクルにはグルタミンの方が適している、といった具合に分かれるそうです。

実験デザインによっては、ラベル分子をきちんと選択することが大事だということを確認させられました。

3報目は、微生物の研究に目を向けてみましょう。同位体ラベル実験は、昔から代謝経路の発見に欠かせないツールです。Okuboらは変異株の解析、転写解析、メタボローム解析、それに代謝フラックス解析を組み合わせて、メチロバクテリウムが持つ未知の代謝経路を同定しました。

この菌は、ある栄養条件下ではグリオキシル酸とアセチルCoAから中心エネルギー代謝に入るマロニルCoAを合成します。ところが、この反応を触媒する酵素の遺伝子変異株も、本来であれば「栄養源を利用できないはず」のその条件で生育できるのだそうです。

メタボロームデータから、その変異株ではグリシンレベルが上昇することが観察され、そして同位体ラベル実験からは、グリオキシル酸がグリシンに変換され、セリンを経てエネルギー代謝に入るという経路の存在が証明されました。変異株のデータを積み重ねた上で、確定的ともいえるラベル実験結果を考察する場面は、まるでパズルの最後のピースを埋めるかのごとく、でした。

4報目は、モデルを使ったフラックス解析で、細胞内の代謝フラックス変動を予想する試みがなされたという論文です。Moらは酵母の培養液、つまり細胞外のメタボロームデータから、細胞内の代謝フラックス変動を予想しました。

ゲノム情報から構築された代謝ネットワークに対して、実測データから代謝変動の「幅」を制限し、異なる条件下での細胞外代謝分子量に適用することで、その変動がどの程度であるというモデルを使ったそうです。遺伝子変異株や培地中塩濃度などに適用されており、それぞれで代謝経路の変動を代表するレポーター分子が提示されています。

現在、血液や尿など、ヒトの体液中のバイオマーカーの探索が世界中で進められています。そのマーカー分子が意味する(組織)細胞内の代謝異常を理解するためには、こういったアプローチも必要なのかもしれません。

次回は多細胞システムにおける最近の研究成果をご紹介します。

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メタボロ太郎なう

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