バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。植物メタブローグ第十弾です。前回から植物のストレス耐性向上のメタボロームについてのシリーズです。このシリーズはストレス耐性向上を目指したトランスクリプトームとメタボロームの研究の長所についてのコラムにしようと考えています。
植物のストレス耐性向上のメタボロームの研究の話題に入る前に、最初の数回で、遺伝子発現に着目することによって、植物ストレス耐性向上のメカニズム解明に貢献した一連の研究について紹介します。
ストレス下で活性化される転写因子およびその下流で発現誘導される遺伝子群を同定する研究は以下の流れで行われます。
①まず、植物をストレス条件下にさらした時、誘導される遺伝子群を同定します。
②次に、誘導される遺伝子群の上流のプロモーター領域において、遺伝子発現誘導に必要な共通のシスエレメントを決定します。ストレスにさらされると、シグナルを受けて、シグナル経路の下流の転写因子が活性化され、その結果、その転写因子が認識する領域(シスエレメント)をプロモーター領域に持つ一連の遺伝子群が発現誘導されると考えられるためです。
③さらに、酵母を用いたone-hybrid screeningによって、このシスエレメントに結合する転写因子を同定することで、ストレス下で活性化される転写因子およびその下流で発現誘導される遺伝子群を同定することができます。
具体的に、遺伝子発現に着目した植物の乾燥ストレス応答メカニズムの解明の研究に上記の研究の流れのを当てはめてみましょう。
①まず、ハイブリダイゼーション法を用いて乾燥ストレス下で発現が誘導された遺伝子を単離し、その遺伝子のcDNAを解読し(rd29Aおよびrd29B)[1]、
②次にその遺伝子についてプロモーター領域において発現誘導に必要な部位(シスエレメントTACCGACAT)を決定します[2]。乾燥ストレス下で誘導される遺伝子群の中で、共通のシスエレメントを持っている遺伝子グループは同様の転写因子を介して、発現誘導されていると考えられます。
③さらに、酵母のone-hybrid screeningによって、このシスエレメントに結合する転写因子(DREB1)を同定しました[3]。
③で同定した転写因子を過剰発現させた植物を作製すると、その形質転換植物は乾燥耐性を獲得していました。これらの結果は、乾燥ストレス下で発現誘導される遺伝子群をまとめて調節している上流の転写因子を同定し、その転写因子を過剰発現させるのは、ストレス耐性付与には有効なアプローチであることが示されました。
この一連のアプローチは、乾燥ストレスだけでなく、一連の生理的現象にも応用できると考えられます。また、ある一つのストレス誘導性の遺伝子を過剰発現させるよりも、ストレス誘導性遺伝子群をまとめて調節しているマスター遺伝子を過剰発現させる方が、高い耐性を示すことも分かりました。
以上の結果から、ストレス耐性のメカニズム解明の手段の一つとして、ストレス下で発現誘導を調節している転写因子を同定するという手法が挙げられます。
しかしながら、転写因子DREB1の過剰発現植物体は、乾燥ストレス下では耐性を示したのですが、ストレスがない状態では逆に生育が抑制されてしまいました。生育が抑制される理由としては、ストレスがない状態でもストレス耐性応答が活性化し、無駄なエネルギーを消費しているためであると考えられ、以降の研究でそれが証明されています。
次回のブログでは、ストレス誘導性遺伝子をまとめて調節している転写因子の発見後の一連の研究について紹介します。
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