こんにちは、バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。当社の研究員である篠田と共に、福岡県小倉のリーガロイヤルホテルで10月7日(木)から9日(土)まで行なわれました第32回日本生物学的精神医学会に参加してきました。
今回の学会は、精神医学の研究分野において、血液生化学、遺伝学、画像研究などを用いて、生物学的メカニズムに踏み込もうとしている先生方が発表される場でした。HMTの研究員という立場から、精神疾患のバイオマーカーについては一体どこまで分かっているのだろうか?という点に興味を持ち、参加しました。
様々な精神疾患について、複数の先生が、脳由来神経栄養因子(BDNF)、MHPG(3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol)、HVA(homovanillic acid)を精力的に調べられており、発表されていました。大うつ病、統合失調症、不安障害など複数の精神疾患患者で血清BDNFは低下しているという結果が得られていました。MHPGおよびHVAもいくつかの精神疾患患者で変動が見られました。しかしながら、診断性能は低く、疾患特異性はなかったので、メタボローム解析してバイオマーカー探索を本格的に行えばいい結果が出るのではないかという印象を受けました。学会中にある先生にメタボローム解析を行わない理由について聞いてみたら、「精神医学の先生方は、メタボロミクスという学問を知らないので、今現在よく知られているBDNF、MHPG、HVAに固執するしかない」という返答でした。まだまだ我々の普及活動が足りてないということですね。「精神疾患のバイオマーカーは生物学的根拠がないと広まりにくい」おっしゃっている先生がいらっしゃいましたが、多くの先生が客観的な診断基準として、有効なバイオマーカーを必要としていることは十分に感じられました。
白血球の24遺伝子のmRNA量を調べることでうつ病と健常者を鑑別する研究が発表されており、多数の遺伝子の発現を調べることによって、うつ病を診断することが本当にできるのだろうかということに興味がありましたが、共同研究企業の都合により、プロジェクトは中止になってしまったということでした。残念です。
遺伝学の観点からは、一塩基置換と疾患発症の関連性については、Genome Wide Association Study(GWAS)が行なわれ、ある遺伝子の一塩基置換が統合失調症の発症と関連するという結論が得られていました。しかしながら、ある遺伝子に一塩基置換があっても疾患発症率が1.5倍程度しか上昇しないため、GWASでは統合失調症に関連する遺伝子を特定するのは難しい印象を受けました。今後は、精神疾患患者と健常者の全ゲノムシークエンスが精力的に行われていく方向に進むと思われますが、果たして有用な結果は得られるのでしょうか?
また、脳の画像をモニターすることによって、精神疾患患者の脳機能の解明を試みている研究が多くなされていました。私は画像研究については素人なので、この方法が実際の精神疾患医療の現場の診断でどれだけ有効なのかについての判断はできませんでしたが、NIRS(近赤外線分光法)を用いることによって、言語流暢性課題時の脳血流を測定し、健常者、大うつ病患者、双極性障害患者を鑑別できるという発表がありました。
来年の第33回日本生物学的精神医学会は2011年5月21日、22日にグランパシフィック LE DAIBA(東京都港区)で行われます。