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ABC's of Metabolomics

実はよく分かっていない 紅葉のメカニズム


こんにちわ HMTの大賀です

気がつけば、今年も残りは2ヶ月余りですね。最近は日暮れが早くなり、吹く風にも、涼しさより冷たさを感じます。先日、鶴岡市の東にある「羽黒山」に行ってきたのですが、どうやら木々も衣替えをはじめているようでした。

植物を鮮やかに見せているものが、色素とよばれる”代謝分子”であることはご存知でしょうか?私たちがいつも目にする緑色は、クロロフィル (葉緑素) という、赤色の光を吸収する分子がその原因になっています。クロロフィルにもいくつか種類がありますが、その中には植物の光合成に必要なものがあり、そのため春や夏など、特に植物の生育が盛んな時期に多く作られます。とても重要なクロロフィルですが、比較的大きな分子なので、一般的なメタボロミクスではあまり対象はならないかもしれません。

一方、秋に見る紅葉の色は「アントシアニン」や「カロテノイド」と呼ばれる、比較的小さな代謝分子が原因です。アントシアニンもカロテノイドもたくさん種類があり、それぞれが生体内での役割を持っている、と考えられています。そしてその中には、私たちヒトを含めた動物にとっても重要なものがたくさん含まれています。例えば、アントシアニンは抗酸化作用を持つフラボノイドの一種ですし、カロテノイドは吸収されてビタミンAになります。植物を彩るだけではなく、私たちの健康にも役立つこれらの分子は、メタボロミクスでも重要なターゲットになります。


どうして秋になると植物の葉は赤色に (あるいは黄色に) なるのでしょうか?現在のところ、この質問に対する回答としていくつかの説があり、どれが正しいのかはまだ証明されていないそうです。
主な説としては、以下のようなものが挙げられています。

  • 気温が下がると根から取り込む水分が減り、葉の根元に「離層」という栄養分のストッパーができる。すると葉で作られた糖が蓄積して、それを原料として赤色の原因となるアントシアニンが合成される。一方でクロロフィルは分解されて葉の緑色が弱くなり、その結果、植物の葉が赤色に見える。(このときアントシアニンが合成されなければ、もともと葉にあるカロテノイドの黄色が目立つそうです。)
  • 秋の間、植物は葉の葉緑素を分解して栄養分を幹や果実に集めようとするため、紫外線のダメージに弱くなってしまう。このとき、アントシアニンや他の色素は紫外線によって生じる活性酸素に対する抗酸化剤として合成され、冬を迎えるまで葉が光合成を続けられるように「日焼け止め」として働いている。

一方、上に挙げたような植物の中で起こる現象ではなく、自分以外の生物へのメッセージ、という観点からの解釈も考えられているそうです。ここで言う「自分以外への生き物」というのは、私たちのような風景を楽しむ人間...ではなく、植物の敵となる害虫です。

  • 植物は害虫に対して毒となる物質 (抗生物質) を合成することで、食害や産卵に対抗している。健康な植物ほど大量の抗生物質を合成して免疫力を高めているが、害虫の側からはそれを「見た目」で判断できない。そこで、植物はあまり重要ではない (むしろ生存には不利になる) けれども、害虫から認識できるモノをたくさん合成することで、 「自分はこんなにたくさんのモノを作ることが出来るので、健康なのだ!だからこっちには来るな!」ということをアピールしている。(ここではかなり擬人化した表現になってしまっています)
    色素はこのような“シグナル”であり、紅葉は害虫に対する警告である。

このような解釈は、生物の非適応な進化(孔雀の羽は生存には不利なはずなのに何故派手になったか、など) に対する解釈の一つとして提唱され(ハンディキャップ理論)、現在ではより進んだ形で考えられているそうです。

なぜ葉の色が変わるのか?人間に答えが出せるかどうかも分かりませんが、もしかすると、論理に凝り固まった頭では思いもつかないような理由なのかもしれませんね。

メタボローム解析をしていても、「なぜこのサンプルでこんなモノが検出されるのだろう?」「なぜこの病気でこの代謝が変わるのだろう?」という結果に出くわすことが度々あります。そこで、常識を覆すような解釈を!と思うのですが、実際には色々と無理なところが出てきて、ダメ出しをされるのがオチだったりします。こちらは人間ですので、そこで枯れて落ちることなく、がんばりたいものです。

[1] 紅葉のメカニズム
(東京大学 有田先生 Metabolome.jp内, メタボロミクスと関係したデータベースも利用できます)

[2] Mate selection-a selection for a handicap
Zahavi A.J Theor. Biol., 1975, 53, 205-214.
[PubMed]

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