こんにちは、B&Mの大賀です。先週のNASAからのニュースは、リンの代わりにヒ素を使って生育する細菌の発見でしたね。宇宙人の登場を期待していた人(?)からは「がっかり」という声もあるそうですが、いやいや十分スゴイ発見ではないかと。
特にDNA鎖にも取り込まれている可能性があるということで、その場合はらせん構造の安定性や複製に関わる酵素の反応機構など、今後の発見も興味深いところです。
そしてやはり、低分子の代謝にも何か特別な酵素やメカニズムが働いているのでしょうか…う~む、NASAから解析依頼が来ないかな?とにもかくにも、まだまだ私たちが知らない代謝を持った細菌が数多く存在することを改めて認識させられました。
ところでご存知のように、細菌は地上の至る空間に存在しており、その中には私たちのお腹も含まれます。ヒトの大腸には100兆個以上とも言われる膨大な細菌の世界が存在しており、最近はこの腸内細菌叢(腸内フローラ)をコントロールすることで私たち自身の体調を整えようという試み、「プロバイオティクス」が一般的にも認知されるようになってきました。今回は、このプロバイオティクスに関する研究から、メタボロミクスを活用した最近の成果を採り上げてみたいと思います。
この分野で特に目覚ましい成果を出しているグループとして、英国のJK Nicholson教授の研究室が挙げられます。例えば、Marthらは無菌環境で育てたマウスの腸内に、ヒト幼児の腸内フローラを人工的に再現しました。そしてこのヒト腸内フローラを持つマウスに乳酸菌を加えた群を用意し、それぞれの糞に含まれる代謝分子を通常のマウスと比較しました。
統計解析の結果、糞の代謝分子プロファイルはヒト腸内フローラ群と通常腸内フローラで分離され、また同じヒト腸内フローラでも乳酸菌の投与から2週間経つと異なるプロファイルになるという結果が得られています。興味深いことに、どちらの区別でも酪酸やコリン、クエン酸など共通する代謝分子の量が変動していました。異なる腸内フローラは異なる代謝分子を作るのではなく、同じ代謝分子の存在量を変えて各々の環境を固定しているような印象を受けます。
また、このグループからは腸内細菌の代謝が全身に及ぼす影響に関しても報告されています。
上記と同様にヒト腸内フローラを再現したマウスについて、プロバイオティクスとして乳酸菌を、またプレバイオティクス(有用腸内細菌を増殖させたり有害菌の増殖を抑制する難消化性食品成分)としてオリゴ糖を単独、あるいは併せて投与しました。
その後コントロールを含めた計3群について、糞便の他に肝臓、腎臓などの組織、血液、尿など、合計10種類の体組織・体液のメタボローム解析を行っています。測定にはNMRが用いられており、全ての組織から合計74個のアノテーションがついた代謝分子が検出されています。
各組織で変化の相関解析を行った結果、腎臓でのアミノ酸や肝臓での脂質代謝中間体など、腸内フローラの影響を受けて一致した挙動を取る代謝分子集団が発見されました。このうち、肝臓での脂質代謝変化は肝臓中トリグリセリド量や代謝遺伝子の発現量変化からも支持されたそうです。腸内細菌が宿主個体全身に及ぼす影響としては免疫に関する研究が進んでいますが、今後は栄養面でも各組織への影響の解明が期待されます。
医療への応用としては、近年大きな問題となっている炎症性腸疾患(IBD)モデルマウスのメタボローム解析が報告されています。
Hongらは、薬剤(DSS)によって誘発された腸炎に対するプロバイオティクスの効果を糞の代謝分子プロファイルから調べています。DSS投与マウスでは腸内炎症の発生や大腸の短縮が観察されましたが、乳酸菌を経口投与するとこれらの軽減が確認されました。
メタボローム解析の結果、DSS投与マウスではアミノ酸類の減少と糖類の増加が観察され、乳酸菌の追加投与マウスでは、このうち酪酸やグルタミン、グリシンの変化が緩和する結果が得られました。詳細なメカニズムについては今後の成果に期待したいところですが、糞の代謝分子プロファイルだけでも各群の区別が可能なようです。対象がマウスであり、また薬剤誘導であることからヒトへの応用にはまだ先がありますが、IBDの診断や治療・経過観察にぜひ繋げてもらいたいところです。
現在のところ、モデル動物を使った研究は盛んに進められていますが、ヒトを対象とした研究はまだチャレンジングな段階にあるように思います。
糞便は血液以上に食生活や習慣などの個体差が反映されるため、どういったデザインで試験を実施すれば良いか、きちんと詰めておく必要があります。
Jacobsらは39名の被験者を対象として、ブドウ抽出液を摂取した際に糞の代謝分子プロファイルがどの程度異なるかを調べています。この研究では糞の抽出条件の検討を行い、個人差の解消や簡便さといった理由から、メタノールを用いた抽出法を推奨しています。
脂肪酸や未同定のピークでは群間差が見られていますが、今回のデータだけでは、明確な変化というには少し弱いかもしれません。今後もプロバイオティクスを含めた健康食品へのメタボロミクスの活用は増えると考えられますが、特にヒトを対象とした場合には、しっかりしたデザインが必要だと痛感させられます。
腸内フローラの研究は、メタゲノム解析を中心として、近年の技術により進展を見た分野の代表例と言えるのではないでしょうか。これまで、見たくても見れなかった、測りたくても測れなかったことが可能となり、新しいデータが蓄積しつつあります。
メタボロミクスに関しては、今のところ脂肪酸や胆汁酸といった、従来から注目されている成分がディスカッションの中心に置かれるケースもありますが、今回紹介した中でも脂質代謝やエネルギー代謝の中間体など、新たに注目されるターゲットが増えつつあると感じます。ひょっとすると、次の新しい代謝の発見は特殊な環境や宇宙からではなく、私たち自身、からあるのかもしれませんね。
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