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ABC's of Metabolomics

いまクールなメタボローム解析とは? -食とメタボロミクス⑤


こんにちは、B&Mの大賀です。今年も残すところ僅かとなりましたね。一年を締めくくる準備は整ったでしょうか?秋から始めた、食に関するメタボロミクスの研究紹介ですが、こちらも今回で締めくくりにしたいと思います。最後のテーマは、この季節、特にお付き合いが増えた方もいらっしゃるのでは?「お酒」に関する最近の研究成果です。

お酒と一口に言ってもたくさんの種類がありますが、中でも醗酵によって得られる醸造酒は、原料と醗酵菌による代謝の賜物と言ってもいいでしょう。ここでも以前、ビールの生産に関するメタボロミクスの活用を紹介したことがありましたが、ビール以外の醸造酒に関しても、その研究の中でメタボロミクスが利用される機会が増えてます。最近は特に「嗜好」や「風味」といった、従来の科学的分析では表現できない評価にメタボロミクスで迫ろう、という試みが目立ちます。

Skogersonらは、GC-MSとNMRによるワインのメタボローム解析結果を報告しています。17種類のワインを測定した結果、GC-MSでは108個、NMRではその約半分である51個の代謝分子が同定できたそうです。GC-MSのデータには、化合物が同定されなかったピーク300以上あったそうなので、まだまだ私たちが捉えていない成分がワインに含まれているのかもしれませんね。

メタボロームデータと官能試験の評価を対応させたところ、「口当たり」や「ボディ(こくや重み)」に関しては、予測が出来るかもしれないとの結論が得られたそうです。ただし、著者らも指摘するようにサンプル数が少ないため、今後はデータの蓄積が望まれます。

Cuadros-Inostrozaらは、FT-ICRMSを使ってブドウの品種、生産農地、ビンテージやランキングが異なる200種類以上の赤ワインのメタボーム解析を行っています。メタボロームプロファイルのPCAによると、品種間の違いが他の指標よりも明確に得られたそうです。また、生産農地やビンテージの違いに関しても、ブドウ品種などでサンプルを絞り込んでいくと、特徴を分離することができたとのことです。今回は、検出された成分の定量値ではなく、ピークプロファイルを用いた解析だったので、今後はそれぞれの指標に特徴的な成分の同定に期待したいですね。

日本が誇るSakeに関しては、慶應大学のグループから研究成果が発表されています。

Sugimotoらは、49銘柄の日本酒のCE-MS測定から700以上のピークを検出し、うち15%について同定に成功しています。同定された代謝成分を全体的に見ると、有機酸やアミノ酸ではクラスターが形成される傾向があり、各銘柄のグループ分けに寄与しているようです。さらにメタボロームデータを回帰分析したところ、官能試験の評価との比較を行った結果、例えば「雑味」と相関するアミノ酸など、評価指標と成り得うる成分が抽出されたそうです。

お酒好きの方の中には、こういった研究を「味気ない」と感じらる方がいらっしゃるかもしれませんね。ですが、長年培われた技術で「完成」ともいえるレベルに達したお酒にも、ヒトの感性とは違う視点を加えることで、全く新しいテイストが創出できるかもしれません。

まだ具体的な可能性が見えていない中では、ちょっと無責任な発言かもしれませんが、メタボロミクスにはそういったドッキリ箱のような一面も期待できると思います。来年、ひょっとするとずっと先のことで、鬼には笑われてしまうかもしれませんが、その実現に立ち会える日を目指して、新しい一年も研究を楽しみたいものですね。

何はともあれ、お酒も研究も、楽しむためには健康であることが一番!年末は仕事もプライベートも忙しい方が多いとは思いますが、体を大事にして新年を迎えましょう。どうぞみなさん良いお年をお迎え下さい。

[1] Discrimination of wine attributes by metabolome analysis.
Anal Chem. 82(9) 3573-80, 2010
PubMed

[2] Skogerson K, Runnebaum R, Wohlgemuth G, de Ropp J, Heymann H, Fiehn O.
Comparison of gas chromatography-coupled time-of-flight mass spectrometry and 1H nuclear magnetic resonance spectroscopy metabolite identification in white wines from a sensory study investigating wine body.
J Agric Food Chem. 57(15) 6899-907, 2009
PubMed

[3] Correlation between sensory evaluation scores of Japanese sake and metabolome profiles.
J Agric Food Chem. 58(1) 374-83, 2010
PubMed

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メタボロ太郎なう

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