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大橋由明のオーストラリア紀行の第4回です。今回は前回に引き続き、シドニー工科大学での講演のお話です。
ビジェイさんの的確なリーディングのおかげで、じつは会場一番乗りだったのですが、十分にプロジェクターの確認などをして真ん中の席に座っていると、他の席はほとんど空いているのに隣にちょこんと座る若い女性がいます。
むむ、どういうことかな?と思い、「ニッポンからきたオオハシです。よろしくお願い致します」と挨拶したところ、「やはりドクター・オーハシでしたか!ワタシはタスマニア大学の大学院生で、ミトラといいます。ユーのことはよく知っています。論文は全部読んでいます。ユーに会うためにタスマニア島から来ました!!」と大きな瞳をキラキラさせておっしゃいます。
おお神よ、オオハシも捨てたものではございません!
と思ったのですが、話し始めてだんだん分かってきました。最初の「ユー」は二人称複数形で、どちらかというと「プロフェッサー・ソガとその仲間たち」という意味合いで、その論文にちょいちょい名前が一緒に出ているオーハシが来るとなると、そりゃ是非お会いしなきゃということでした。
しかも、そのドクター・オーハシに会わなければならない理由は、「ミリポアの限外ろ過フィルターが製造中止だという情報が入りました。ワタシはこのあとどうしたらいいのでしょう?」ということでした。
うーん、なんで英語では二人称は単複同形なんだろう?英語よ、お前のそういうところが、私は嫌いだ):-(
ミトラさん以外にもシドニー大学やメルボルン大学の学生さんたちもいて、本当に熱心。講演の間中ノートをひっきりなしに取り、いちいち頷き、ちょこちょこ質問を挟んで応援してくれます。
「CE-TrapMS を持っていますが、なんとかこれを使って血液メタボロミクスをやりたいんです。でも、プロフェッサー・ソガやHMTのようにたくさんピークが見えないのです。どうしたらいいんでしょうか?」
と悲しそうな顔をする学生もいます。佐川さん(HMTメタボロミクスソリューションパッケージ担当のエンジニアです)、迷える子羊たちを是非救ってあげて下さい。
バイオマーカーの話もとても熱心に聞いていただき、「血液はマイナス80度か、それ以下の温度で保存して下さいねー。その辺の冷蔵庫はだめですよ。冷凍庫はせいぜいマイナス20度ですからね。代謝物質レベルは、その保存だと1年で変質しますよー」と言ったら、ほぼ全員がノートにメモし、かつそのうち少なくとも4,5人は絶望感あふれる表情を見せました。嗚呼、胸が痛い。
でも我々もそうやってほとんどのご検体を無駄にしたことがあるんです。みなさん、帰ったらマイナス80度の超低温フリーザーを掃除しましょう。
タスマニア大学やシドニー大学の大学院生の熱心さに感動し、「私はすっかり彼らのようなひた向きさを失ってしまったなあ」と嘆いていると、ふと思い出しました。
HMTが毎年行っている「大学院生のための先導助成」です。ここに応募し、勝ち残った全国の大学院生の方々は、一人残らずミトラさんと同じような「ひた向き」な目をしています。もちろん、HMTの若き研究員たちも同じ目を持っています。このような若者たちが、これからの世界のサイエンスを牽引していくのだと、四十にして惑わないはずの大橋は感慨に耽るのでした。
「大学院生のための先導助成」は、実は日本の大学院生だけが対象ではありません。世界中にCE-MS のデータが欲しくてたまらない学生さんがいることが分かり、ただでさえものすごい難関になってしまった同企画が、今後世界中からの優れた申請書であふれる日は近い!と、メルボルン行きの飛行機から見える、広大な地平線に沈む夕陽に目を細めながら確信したのでした。
(※編集部注 HMTの先導助成は昨年2010年度から募集対象を全世界に広げており、海外からの応募もあります!みなさんもぜひ)
シドニーでは、他にも何人かの方から、「ユー(たぶん二人称複数形)の話を聞きにどこそこから来ました」と言われました。HMTを代表しているということなのですが、本当に耳をそばだてて聞いてくれて嬉しかったです。また、HMTや慶應の動向を世界の人が見ていてくれるのは非常にありがたいことです。