バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。植物メタブローグ第三弾です。
前回のブログでは、無機窒素化合物を有機窒素化合物に変換する代謝経路中の1つの反応を担う酵素を過剰発現しても、植物中の有機窒素含量を増加させることができないことを説明しました。今回のブログでは、それでは一体どうすればいいのだろうかということについて何かしら示唆ができればと思っています。
前回の繰り返しになりますが、土壌中から取り込まれた硝酸イオンは、亜硝酸イオン、アンモニウムイオンに変換され、アンモニウムイオンとグルタミン酸からグルタミンが生成されます。さらに、グルタミンと2-オキソグルタル酸から2分子のグルタミン酸が生成されます。このように、無機窒素化合物を有機窒素化合物に変換する一連の代謝経路において、有機窒素化合物を生合成するためには、無機窒素としての硝酸イオンだけでなく、2-オキソグルタル酸も必要になります。硝酸イオンからグルタミン酸まで変換する酵素を過剰発現しても、植物中の有機窒素含量を増加させることができなかったことから、2-オキソグルタル酸の供給の方が律速になっているかもしれません。
2-オキソグルタル酸は、この経路へどのように供給されるのでしょうか?
植物の地上部では、還元的ペントースリン酸回路(カルビンサイクル)で二酸化炭素が固定され、このサイクルが回ることによって生じたジヒドロキシアセトンリン酸が解糖系に流入し、TCAサイクルを経由して2-オキソグルタル酸が生成されます。一方、根では、デンプンが分解され、生じた糖リン酸から解糖系、TCAサイクルを経て2-オキソグルタル酸が生成されます。このように、2-オキソグルタル酸の供給には、還元的ペントースリン酸回路、解糖系、TCAサイクル、デンプン合成分解経路など多くの代謝経路が関わっています。
最近の論文の結果を分析すると、有機窒素含量を増加させるために、これまで注目していた視点とは異なり、2-オキソグルタル酸の供給量を上げるのが効果的であるのではないかという考えに変わってきています。そのためには、2-オキソグルタル酸の供給に関わる還元的ペントースリン酸回路、解糖系、TCAサイクル、デンプン合成分解代謝など多くの代謝経路に着目していかなければなりません。これらの代謝経路を一度にモニターするためには、メタボローム研究が最も適した手法と言えるはずです。
次回は、無機窒素化合物から有機窒素化合物に変換する代謝経路への2-オキソグルタル酸の供給について、もう少し具体的にお話したいと思います。