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ABC's of Metabolomics

『日本東洋医学会総会』参加レポート


こんにちは、B&M の大賀です。先週は名古屋で開催された『第61回 日本東洋医学会総会』に参加してきました。

東洋医学、特に漢方については以前から個人的な興味もあったのですが、メタボロミクスが活躍できる分野としての期待も持っています。実際にお隣の国、中国や韓国を中心に、この分野に於けるメタボロミクス研究の成果は増えつつあります[1,2]。

一方、本邦では現在のところ、まだ漢方医療の研究とメタボロミクスが密接には繋がっていないように感じています。そこで、現在の東洋医学にはどういった課題があるのか、またその中でメタボロミクスをどう活用できるか、という点を勉強してきました。


会場が広く、基礎研究を中心とした一部のセッションしか聴講できなかったのですが、その中で最も気になったことは、漢方薬に用いられる生薬の品質管理の問題でした。ご存知の様に、生薬の生理作用を担う薬理物質の多くは、原料に含まれる代謝分子です。

これまで先達の研究から、一般的に用いられる生薬については主要な薬理成分が同定されており、メーカーから販売される商品はそれら「メインの成分=薬効」が一定になるように管理されています。

しかし、ここが漢方薬の妙とでも言うのでしょうか、生薬には主薬効の他にも多様な生理活性があり、それを担う多くの薬理成分(この中には未同定の分子も含まれる)まで完全に均一化するのは難しいそうです。

この点、メタボロームによる生薬の品質鑑別に関する論文は幾つか出されていて、例えば産地や修治(生薬の効果を高めるための調製加工法)によるプロファイルの違いは確かに検出されています[3]。

しかし、その違いが「薬効」という面でどれほどの意味があるのか?という問題は未解決で、漢方医療の専門家の参入が必要な、今後の大きな課題の一つだと思っています。

また、今回の勉強では特に、薬効成分の代謝動態の研究が重要だと思うようになりました。生薬に含まれる成分が分かっている場合でも、その分子がどのように体内に取り込まれ代謝されるか、あるいはターゲット蛋白と相互作用するのかが不明なことは多いそうです。

薬効成分が明確な合成薬剤では、検出対象が限定されるので比較的取り組みやすい課題なのですが、未同定の分子も含まれるケースになるとそのハードルがかなり高くなるようです。生薬成分の薬物動態に関しても測定技術をメインとした論文が出ていますが[4]、その測定対象と成果はまだ限定的であり、取り組むべき課題は多く残っています。

正直なところ、漢方医療を含めた東洋医学について私自身がまだ浅学なので、上に書いたことには勘違いがあるかもしれません。しかし、これほど長い歴史と実績を持つ医療行為にも関わらず、いわゆる『科学的』な検証(単にデータと言い換えても良いかもしれません)が不十分とされて、昨今の政策にある様な、その活用の可否を問われかねない現状はとても残念で、だからこそ「メタボロミクスがその解決の一翼を担えれば」という想いが強くあります。今後もその可能性についての勉強を続けて、機会があればこの場で発信できればと思っています。

ところで、会場となった名古屋国際会議場には『幻のスフォルツァ騎馬像』という大きな馬上像がありました。これまで馬上像の中では、山形城の『最上義光公像』がマイベストだったのですが、こちらの重量感漂う雰囲気も捨てがたいものです。なんでも「レオナルド・ダ・ヴィンチが製作に着手したものの(その時代は)未完成に終わった」ものを現代に再現する際に、ブロンズで製作した場合には脚部が重量に耐えられないことが判明して、材質を強化プラスチック変更したそうですよ。もし中世の当時にこのブロンズ像が完成していたとして、お披露目の時には「ボキ」となっていたのでしょうか?だとすると、当時は未完成のままで良かったのやら悪かったのやら…

近代科学の人類史に於ける功罪は議論が尽きないところですが、それによってはじめて完成をみる歴史的事業もありえるのだ、と。いささか大げさですが、この像は、その最たる例なのかもしれませんね。

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メタボロ太郎なう

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