バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。植物メタブローグ第四弾です。
前回のブログでは、無機窒素化合物を有機窒素化合物に変換する代謝経路を活性化するには、硝酸イオンの取り込みおよび変換だけでなく、アミノ基を受け取る炭素骨格としての2-オキソグルタル酸の供給が重要な因子であることを説明しました。
今回と次回のブログでは、2-オキソグルタル酸の供給を増加させると植物の生育にどのような影響を及ぼすのかを解析した論文を1報ずつ紹介します。1つ目の今回は、ジャガイモを用いて変異型ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼを過剰発現させて代謝がどのように変動したかを調べた論文です[1]。
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼは、植物、微細藻類、グラム陰性菌に存在し、動物、酵母、カビには存在しない酵素で、ホスホエノールピルビン酸からオキサロ酢酸を生成する働きを持っています。また、この酵素はリンゴ酸の蓄積によってフィードバック阻害を受けています。
植物では、この酵素は解糖系の代謝物を積極的にTCAサイクルに流入させることによって、炭素源を糖リン酸から有機酸やアミノ酸合成へシフトさせる役割を持っています。今回過剰発現させた変異型ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼは、リンゴ酸の蓄積によってフィードバック阻害を受ける部位を除去していて、リンゴ酸の蓄積による酵素活性の抑制は見られません。
この形質転換ジャガイモでは、デンプン、スクロース、糖リン酸が顕著に減少し、有機酸、アミノ酸レベルが劇的に上昇しました。アミノ酸レベルの増加によって、有機窒素化合物の増加は達成されたのですが、それに伴う植物体の生育の向上は観察されず、逆に抑制され、塊茎も小さくなるという結果になりました。
この論文の結果から、変異型ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼを過剰発現させることによって、有機窒素含量を増加させることはできたにもかかわらず、デンプン、スクロース、糖リン酸が顕著に減少し、代謝バランスが崩れてしまい、逆に生育に負の効果を与えることが明らかになりました。植物体の生育の促進を目指すには、解糖系の代謝物、TCA回路の代謝物、アミノ酸のバランスを崩さずに、有機窒素含量を増加させなければいけないという新たな課題が浮かび上がりました。それと同時にリンゴ酸の蓄積によって、この酵素をネガティブに調節するメカニズムは植物の正常な生育には必要であることも明らかになりました。
今後は、生育を向上させるためには、有機窒素含量を増加させるだけでなく、全体の代謝バランスが崩れることによる生育への影響を吟味しなければいけないという新たな課題が浮かび上がってきました。
次回のブログでも、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼに着目して有機窒素化合物の増加と植物体の生育の促進を試みた論文を紹介します。
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