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ABC's of Metabolomics

いまアツいメタボローム解析とは? -代謝フラックス解析⑥


こんにちは、B&Mの大賀です。前回は、メタボロミクスと共に安定同位体ラベルや数理モデルを駆使した近年の代謝フラックス解析を紹介しました。今回は代謝フラックス研究者が陥るであろうジレンマについてお話します。

代謝フラックスのデータを得る時、多くの研究者は『あるジレンマ』に突き当るのではないでしょうか?そのジレンマとは「多くの測定法が侵襲的であるため、データを得ると同時にその時点から先の代謝情報を失ってしまう」というものです。

微生物や培養細胞の場合、(ほぼ)同一の条件に調整されたサンプルを分離採取できるケースが多いですが、高等生物、特に寿命の長い動物となると、いかに環境をコントロールしても、データに含まれる個体差が無視できなくなります。そうやって得られた代謝フラックスは、いわば、大勢の人が1ページずつ筆跡を似せて描いたパラパラ漫画を読んでいるようなものです。

このジレンマ、質量分析計を用いた場合には、現在のところ如何ともしがたい状況です。

一方、NMRでの測定は試料への影響が小さいため、生きた細胞をターゲットにした非侵襲的なメタボローム解析が行われています。Fukudaらは微生物の培養液をそのままNMRにセットすることで、脂肪内の脂質代謝分子の変換を経時的に測定しました。

腸内細菌の一種であるB. fibrisolvensは、生育を阻害する不飽和脂肪酸(リノレン酸)を低毒性の脂肪酸に変換する代謝経路を持ちます。

その代謝能が異なる3つの株について、リノレン酸から最終産物であるバクセン酸にいたるまでの各中間体物質の増減を調べると、それぞれの増殖能に応じて代謝の進行具合が異なる様子が観察されました。詳しくは、理研のプレスリリースに掲載されています。

現在のNMRを用いたメタボロミクスでは、代謝分子の混合溶液など液性試料の測定が主流ですが、Magic angle spinning という手法を用いることで、組織のような固体試料も測定することが可能になっています。

英国インペリアル大学の Nicholson教授のグループからは、この測定法による哺乳動物組織の解析事例が報告されています。測定に必要なサンプル量は、10mg程度と微量なので、例えば人体から摘出した小さな病巣の解析にも適用できる範囲です。文献には、試験のデザインから装置の設定まで詳細な記述があり、実際に実験を始めようという方にはとても参考になります。また、1990年代後半からのin vivoメタボロミクスの研究例にもついてまとめられており、レビューとしても重宝できる一報でした。

自然を観察するためには、大なり小なり、本来の状態に何らかの影響を及ぼすことが避けられません。しかし、実際にどれだけの影響が生じているのか?を正確に知ることは、案外難しいですよね。低侵襲性の測定データが得られることで、そこにあった本来の代謝の流れを知ると同時に、それを眺めている私たちの虫めがねの『ピント合わせ』が上手に出来るようになることを願っています。

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メタボロ太郎なう

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