バイオメディカルグループの篠田です。ポストゲノムがもたらした次世代シーケンサーについて・後編です。前編はこちらから。前編では次世代シーケンサー以前のシーケンシング法について触れました。後編ではいよいよ次世代シーケンサーについてです。シーケンサーの次世代化・超ハイスループット化はどのように実現されたのでしょうか?各社で方法は異なりますが、コンセプトは共通です。
その共通のコンセプトとは、「短くたくさん読んでゲノムに貼付ければ良いじゃん!」というものでした。
実は、「次世代」シーケンサーとはいえ、long-readで有名なロシュの454でも、Read長はせいぜい500塩基であり、「旧世代」の1,000塩基にかないません。ましてや、short-readのSOLiD、Genome Analyzerなどは、50塩基にも満たないRead長です。
しかし、ヒト・ゲノムが解読されたポスト・ゲノム時代の今では、アッセンブルの不確実性が格段に減るため、50塩基に満たないRead長のデータでも、十分実用に耐えるのです。
ポスト・ゲノム時代で「短くたくさん読めばOK」というコンセプトが許されたとたん、様々な分野の技術が出会い、次世代シーケンサーとして結実しました。その技術の代表が単分子シーケンシングです。
これまで、1分子でシーケンスを読む事は難しかったため、上述のとおり大腸菌に増幅させていましたが、そのボトルネック・ステップを不要にしたのが、Emulsion PCR, Bridge PCR といった単分子PCR法です。例えばEmulsion PCRでは、極小のビーズにDNA分子を1分子ずつ固定し(1つのビーズにDNAが複数の種類結合しないよう濃度を調節)、ちょうどビーズ一個だけが入ることのできる穴が無数にあいたプレート上でPCRを行います*。
*Genome AnalyzerのBridge PCR 法では、DNAを結合する担体としてビーズではなくDNA断片を結合した基板を用います。
単分子PCRで1,000塩基を読もうとしたら困難ですが、30塩基ならば可能です。しかも、この時に疎水性溶液と混ぜることで、化学的に反応区画の分離を可能にしました。よって、プレート上で超並列化することが可能になり、一度のRead長は短くても、「次世代」の超高速のシーケンシング・スピードを実現できたのです。どこか、電圧の01(ゼロイチ)を超並列に組み合わせて高い処理能を生み出す、デジタル回路にも似ていますね。しかも、この技術は必要なサンプル量も極少ですむ利点もあり、良い事尽くめです。
このように、ポスト・ゲノム時代の到来と、そこから演繹される共通のコンセプトにより、次世代シーケンサーは生まれたのです。これからも、ゲノムワイド関連解析、多型解析、デジタル発現解析など、応用分野を広げて、活躍してくれることでしょう。