こんにちは。バイオメディカルグループの大橋です。
世界の叡智が結集するボストンで、今年のMetabolomics 2008は開催されました。2年前に続いて2度目のボストン開催ですが、今回は街の中心地、パブリックガーデンを望むバックベイエリアでの開催。お昼はおしゃれなカフェで一息つくことができます。
さて、メタボロミクスです。
今年は疾患関連の話題がものすごく増え、医学系学会の様相を呈してきました。ガンや生活習慣病はもちろん、精神疾患分野まで成果が出つつあるようです。解析手法の議論も未だに多いのですが、とにかくメタボロミクスで難治疾患治療に光明をもたらそうとする研究者の意気込みがひしひしと伝わってきます。代謝物質は私たちの身体を直接維持している重要な分子ですから、多くの研究者が疾患との関わりを第一に期待しているのがわかります。
一方で、多くの講演を拝聴し、ポスターを見て回るにつれ、違和感を覚え始めました。代謝マップがほとんど見当たらないのです。これまで私たちは、メタボロームデータから如何にブランクのない代謝マップを作り上げるかを目指してきました。今回はCE-MSデータから375代謝物質からなる大腸菌の大規模マップを作成し、披露しました[1]。5年前に50代謝物質マップを作成してから[2]、かなりの進歩です。生化学者の多大な努力により、代謝マップのかなりの部分が明らかになっている現在、代謝をネットワークとして理解することは、疾患バイオマーカーに合理性を与え、治療の方向性をも評価できる可能性を持っています。地道にメタボロームマップを作り上げるのは、まさに「日本人的」仕事なのかもしれませんが、今後も手を緩めないつもりです。
今回は、フラクソミクス関連の講演が際立っていました。Princeton大学のグループは、エネルギー代謝を中心に大規模フラックス解析を行い、線維芽細胞の増殖期と静止期の代謝流束変化を明確に描き出すことに成功しました。代謝ダイナミクスは、私たちに生体の躍動感を感じさせます。これが、聴衆に知的興奮をもたらした大きな理由だと思います。
メタボロームデータから、如何に代謝ダイナミクスを読み取るかが今後の大きな課題です。膨大なデータから複雑で難しい結論を導き出すのは簡単ですが、シンプルで的を射た代謝ダイナミクスにまとめ上げるのは難しいことです。とんでもない宿題を与えられたMetabolomics 2008でした。
来年の韓国大会を待たずとも、メタボロミクス関連学会は他にも開催されています。どこかの学会で皆様にお会いできることを楽しみにしております。
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[2] Soga et al., J. Proteome Res. 2003, 488-494.
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– 発表の傾向
– 国別発表数と入場者数
– 社長レポート
– インフォマティクスレポート