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ABC's of Metabolomics

【がんとメタボロミクス2】乳酸脱水素酵素とがん細胞の増殖


バイオマーカー・分子診断事業部の藤森です。前回のがんとメタボロームの続きについてお話したいと思います。

前回は、がん細胞はエネルギー獲得と同時に増殖に必要な細胞内構成成分を生合成するのに有利な代謝を行っていること、グルコースやグルタミンを大量に取り込み、解糖系およびグルタミン分解が活性化されていることをお話しました。

グルコースは解糖系でピルビン酸に変換され、乳酸脱水素酵素によってさらに乳酸に変換されます。グルタミンも、グルタミン酸を経て、2-オキソグルタル酸に変換され、ミトコンドリア内のTCA回路に入り、リンゴ酸が生成されます。生成された一部のリンゴ酸はミトコンドリアから再び細胞質へ出て、リンゴ酸脱水素酵素によってピルビン酸に変換され、グルコース由来のピルビン酸の場合と同様に乳酸に変換されます。そのため、ピルビン酸から乳酸への反応はがん細胞代謝において非常に重要な働きをしています。

がん細胞内で、乳酸蓄積に関して、グルコースとグルタミンがどの程度寄与しているかについては大変興味深い問題で、いずれお話したいと思いますが、今回はピルビン酸から乳酸を生成する乳酸脱水素酵素に着目して、この酵素ががん細胞の増殖に重要であることを示した論文について説明します[1]。

この論文では、乳酸脱水素酵素の活性が高いがん細胞(Neu4145)にショートヘアピンRNA法を用いて乳酸脱水素酵素の活性を抑制させたがん細胞(L2-5)を用いています。

乳酸脱水素酵素を抑制させたがん細胞(L2-5)では、低酸素下におけるプレート上の細胞増殖の阻害が見られ、乳酸脱水素酵素ががん細胞の増殖に必要であることが明らかになりました。また、L2-5ではNeu4145と比較してミトコンドリア呼吸速度が上昇し、乳酸脱水素酵素の活性とミトコンドリア呼吸の間には密接な負の関係があることが証明されました。

Neu4145とL2-5のがん細胞をマウスにインジェクションをしてがん細胞の増殖を調べるとNeu4145と比較してL2-5のがん細胞の増殖は著しく増殖されていました。この結果は、プレート上だけでなくマウス体内のがん細胞の増殖にも乳酸脱水素酵素の重要性が示されました。

上記の論文では、乳酸脱水素酵素、ミトコンドリア呼吸、がん細胞の増殖に関しては、詳細な解析が行われ、がん細胞における乳酸脱水素酵素の働きを議論する上で重要な知識を与えてくれています。しかし、この論文のデータからだけでは、乳酸脱水素酵素の働きががん細胞の代謝全体に対してどのような影響を及ぼしているのかについては明確になっていません。

乳酸脱水素酵素の活性が低下することによって、NADHからNADへの変換ができず、NADの枯渇により解糖系の活性が低下し、逆に酸化的リン酸化によるATP生産が活性化されることが予想されます。また、細胞内構成成分の材料(リボースや脂肪酸など)の生合成も抑制されている可能性も考えられます。

乳酸脱水素酵素活性の抑制ががん細胞内の代謝全体にどのような影響を及ぼすのかについて詳細に調べるためには、メタボローム解析が最も適しています。がん細胞の代謝戦略を解明するために、断片的には詳細な情報が蓄積されつつありますが、次のステージに進むためには、それらを統合することが求められていると思います。

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メタボロ太郎なう

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