こんにちは、B&Mの大賀です。食に関するメタボロミクスの第4回目です。今回は、日本人には特に欠かせない食べ物、古くからのノウハウが生み出す醗酵食品に関する最近の研究成果をご紹介します。
1つ目にご紹介するのは、Yoshidaらが報告した日本国内で販売されている様々な味噌のメタボローム解析です。
販売会社、色、発酵期間が異なる24種類の試料について、LC-MSによる測定を行い、プロファイルを比較しました。LC-MSでは、一般的にC18カラムが用いられますが、今回の試験ではペンタフルオロフェニルプロピル(PFPP)カラムを用いることで、アミノ酸や有機酸といった親水性化合物の検出が改良され、その結果、例えばPCAで味噌の色によるグループ分けがより明確になったそうです。
また、色や醗酵期間といったグループ分類に寄与する検出物を抽出した結果、アミノ酸や有機酸、あるいは糖化アミノ酸などの親水性代謝分子が多く挙げられています。こういった物質の検出・定量は、まさにCE-MSの得意とする領域ですが、今後は他の技術でどんな対抗馬が出てくるかしっかりフォローしていきたいと思います。
最近はお隣の国、韓国でも醗酵食品のメタボロミクスが盛んなようです。
Yangらは、韓国味噌(テンジャン)の醗酵時間によるメタボロームプロファイルの変化を報告しています。醗酵開始直後から5ヶ月程度まで熟成させた試料群について、NMRによる測定を行い、スペクトルパターンから期間を反映するPCAでの分離を得ています。この分離に寄与するピークからアノテーションを試みたところ、乳酸や分岐鎖/芳香族アミノ酸の量が発酵の中で変化することを確認したそうです。
また、このグループからは、乳酸菌による豆乳の醗酵に関しても醗酵期間によるメタボロームプロファイルの比較が行われており、こちらでは有機酸や糖類、そして抗酸化作用と絡めてフェノール化合物の総量変化に関しても報告されています。
一方、同じ大豆を原料とする醤油(カンジャン)については、Koらの報告があります。
こちらの試験もやはり、NMRによる醗酵期間、あるいは異なる製法・製品間でのプロファイル比較ですが、同定された37物質の定量値を代謝経路に反映することで、醗酵菌の代謝に関する考察まで深めることに成功しています。
この研究では、最も醗酵期間が長いものとして「12年もの」の試料があるのですが、4年以下の試料と比べて違いが確認されています。つまり、食品の中では4年を超えて、もしかすると10年以上も微生物による醗酵が続いていた可能性が高く、これを食すというのはかなりスゴイ贅沢に思えます。日本でも時折「何十年もの」の醗酵食品が話題になりますが、メタボロームという視点で見ると、改めてその価値を堪能できる?かもしれませんね。
最後は少し趣向を変えて、プーアール茶の製法にメタボロミクスから迫る、という研究です。
プーアール茶には、緑茶茶葉を残存する酵素で醗酵させた「生茶」と、生茶を多湿状態に置くことでカビによる醗酵を行う「熟茶」があるそうです。生茶には数十年を超えるようなビンテージ品もありますが、現在一般的に販売されているのは、年代を経た茶葉の風味を短時間で量産できる熟茶の方なのだそうです。
KuらはLC-MSでの測定により、最長で15年間の熟成を経た生茶サンプル群と、最長で13年間の熟成を経た熟茶サンプル群の比較を行いました。生茶抽出物の方が高い抗酸化作用を持つそうなのですが、今回の研究ではフェノール成分やフラボノイドの総量が生茶の方で多いと確認されたそうです。
また各製法で醗酵期間を反映する変化を示すマーカーによる年代予測を行ったところ、良好な予測性能が得られ、さらに、モデルへの寄与が大きい成分に関して、なぜ長時間醗酵でその量が変化するのか、またそれによってもたらされる抗酸化作用についても言及されています。今年のHMTセミナーでは、ワインの熟成期間を評価するメタボロミクスアプリケーションを紹介していますが、他の食品・分野でもその活用は広まっているようですね。
全体的に、現時点でのメタボロミクスの活用は、品質管理や、あるいは何らかの指標に基いた鑑別に限られているようです。一方で、機能性食品としての価値創出や消費者の嗜好を反映した製品開発といった用途へも、利用するケースが増えつつあるように感じます。
食品を熟成して美味しくするのは微生物の仕事ですが、メタボロームデータを熟慮して「美味しい結果」を生み出すのは研究者のお仕事です。我々もぜひ、何十年先にも評価される成果を産み出したいものですね。
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