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ABC's of Metabolomics

「第1回がんと代謝研究会」参加レポート


研究開発本部の藤森です。2013年10月30日から11月1日まで山形県鶴岡市で行われている「第1回がんと代謝研究会」に参加してきました。

地方都市で交通の便がよいロケーションではなく、また「がんと代謝」という、限定されたテーマでであったにもかかわらず、約300名が参加し、熱い議論が交わされていました。がん領域の最先端の研究をされている著名な先生方も多数参加されており、がん領域の研究でもゲノムから再び代謝に焦点があてられ始めたことが、認識できました。

質量分析計等の技術的進歩により、比較的容易に、主要代謝経路のほとんどの代謝中間体を検出・定量すること(メタボローム解析)ができることにようになったこと、ゲノムに着目をしたがん領域の研究に限界が見え始めたことが、再び、がん領域の研究者が代謝に着目し始めたドライバーになったのではないでしょうか。

一部ではありますが、個人的に非常に印象的だった発表について紹介したいと思います。

公益財団法人がん研究会がん研究所の大谷先生の発表では、肥満による肝がんの発症のメカニズムについてお話しされていました。肥満と細胞老化から、細胞老化関連分泌因子、肥満とがん発症の一連の研究について説明されていました。肥満で増加する腸内細菌が産生するデオキシコール酸が肝がん発症の主要原因であることを明らかにしたという内容は、すでにNature誌に掲載されおり、以前にHMTの論文紹介ページ、メタボロミクスインサイトで紹介の記事を書きました。この研究でキーとなる代謝物質は、CE-TOFMSによるメタボロームにより発見されています。容易には乗り越えられない大きな山を、何度も乗り越えた結果であると感じました。

[1] Yoshimoto S, Loo TM, Atarashi K, Kanda H, Sato S, Oyadomari S, Iwakura Y, Oshima K, Morita H, Hattori M, Honda K, Ishikawa Y, Hara E, Ohtani N , Obesity-induced gut microbial metabolite promotes liver cancer through senescence secretome. , Naure 499(7456) 97-101 , 2013
PubMed


東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の本橋先生は、がんにおいて、異常に蓄積し、薬剤抵抗性や放射線抵抗性に関与しているNrf2の詳細な機能の解明についてお話しされていました。Nrf2が、グルコース代謝、グルタミン代謝を調節していること、Nrf2とPI3K-Aktとの相互に活性化していることは、すでにCancer Cell誌に掲載されています。Nrf2が、代謝をリプログラミングし、細胞の増殖能を高めているという生物の精巧なメカニズムの一端に触れることができました。


[2] Mitsuishi Y, Taguchi K, Kawatani Y, Shibata T, Nukiwa T, Aburatani H, Yamamoto M, Motohashi H
Nrf2 redirects glucose and glutamine into anabolic pathways in metabolic reprogramming.
Cancer Cell 22(1) 66-79 , 2012
PubMed


日経BP社の宮田氏は、がんの分子標的薬の限界、遺伝子変異に着目した分子標的薬では解決できなかったことを、代謝に着目した新規薬剤の開発は、上記問題を解決できる可能性があることをお話しされていました。小児の急性がんではがんを発症させるドライバー遺伝子が存在するので、その遺伝子をターゲットにした分子標的薬が非常に有効であるのに対して、肺がん・大腸がんでは少なくとも100以上の遺伝子変異の効果が絡み合ってがんが発症するので、そもそも遺伝子変異をターゲットにした分子標的薬はあまり効果がないの至極当然だとおっしゃっていました。

今回がん分野の方が参加されるのはもちろんなのですが、「メタボロームはまだやったことがないんです」「メタボロームの勉強のために来ました」とおっしゃっている方が多かったのも印象的でした。学会に参加し、がん研究においてメタボローム解析が今後ますます重要なツールになっていくことが実感できました。

次回は2014年7月10日、11日に東京理科大学で開催されます。ぜひみなさんご参加ください。

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メタボロ太郎なう

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