«

»

ABC's of Metabolomics

メタボロミクスが華ひらくとき


こんにちは HMTの大賀です。

先週は鶴岡市を流れる赤川で花火大会がありました。「全国デザイン花火競技会」として毎年行われるこの花火大会、今年は夜空に 10,000 発以上の華が咲き、普段は閑静な川辺も多くの人で賑わいました。

ところで、技術や学問にも、華ひらくとき があるものです。

何をもってその時とするかは人それぞれの意見があるかと思いますが、世に広く知られるという意味で、いわゆる「メジャーな科学誌」に論文が発表されることが一つの目安になるかと思います。

メタボロミクスに関する論文も、これまでいくつかの有名な科学誌に掲載されていますが、今回はその中でも、メタボロミクスが世に広まりはじめた2000年代前半にNature Biotechnology 誌に掲載された 2 つの論文をご紹介したいと思います。


前回ご紹介した Oliver のグループは、酵母の機能ゲノミクスに関して 2001 年に成果を発表しました。遺伝子が変異しても表現型がみえない「silent mutation」を調べるためにメタボロミクスを使う、という概念は前回の記事でご紹介しましたが、この論文では NMR を用いて実際に酵母由来の代謝分子を測定しています。また代謝分子を同定するのではなく、測定したスペクトルのパターンを直接分類に用いた「foot printing」も使われています。このグループは 2003 年にも同誌に後続研究の成果を発表しています。

一方、2004 年にはヒトのオミクス解析についての総説を Wilson のグループが発表しました。メタボロミクスに限らず、オミクス解析では非常に多くの情報を得ることが出来ますが、多細胞生物 (特にヒト) のような複雑な系を調べるときには、全体の中のどの部分が見えているのか、あるいはどういった現象が見えているのか、がわからない恐れが生じます。そこで全体を比較的単純なブロックの集合だとみなし、それらのブロックを上手に”組み合わせ”て表現することが出来れば、得られたデータを解釈したり、あるいは異なるオミクスデータを統合する際の助けになると考えれらます。

生物の複雑系をモデル化する、ということは現在でもまだチャレンジの段階にあるのでしょうが、こういったアイデアに挑戦できるくらいに、学問と技術が進歩していることに改めて気付かされます。

どれほどきれいな花火も、それを見て楽しむ人がいなければ価値がありません。メタボロミクスも、その技術を多くの人に知って利用していただけるよう、様々な形で世に広めていきたいものです。

[1] A functional genomics strategy that uses metabolome data to reveal the phenotype of silent mutations.
Raamsdonk LM, Teusink B, Broadhurst D, Zhang N, Hayes A, Walsh MC, Berden JA, Brindle KM, Kell DB, Rowland JJ, Westerhoff HV, van Dam K, Oliver SG.
Nat. Biotechnol. 2001 Vol 19, pp 45-50.
[PubMed]

[2] High-throughput classification of yeast mutants for functional genomics using metabolic footprinting.
Allen J, Davey HM, Broadhurst D, Heald JK, Rowland JJ, Oliver SG, Kell DB. Nat. Biotechnol. 2003 Vol 21, pp 692-696.
[PubMed]

[3] The challenges of modeling mammalian biocomplexity. Nicholson JK, Holmes E, Lindon JC, Wilson ID. Nat. Biotechnol. 2004 Vol 22, pp 1268-1274.
[PubMed]

«

»

メタボロ太郎なう

Photos on flickr