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ABC's of Metabolomics

[第4回マルチオミクス] ワールブルグ効果の再興―がんは代謝研究だった?


こんにちは、バイオメディカルグループの篠田です。今回はがんとメタボロミクスについてお話しします。

昨今、がんは遺伝子の病気ということになっており、例えばWikipediaで”がん(悪性腫瘍)“を調べると、

がんは、遺伝子の突然変異によって発生する。



と最初に書かれています。

しかし、遺伝子異常が生じ、シグナルが停止せずに不要な増殖を続けるのががん、というのが正しいとしても、がん遺伝子が無から有を生み出すわけではなく、細胞が倍々に増えるには、莫大なATPが必要です。がんはどのような代謝でATPを得ているのでしょうか?この問いに答えるには、遺伝子だけではなく、代謝の観点からもがんを捉える必要があります。

不思議なことにがん細胞は、ATPを最も効率的に得られる酸化的リン酸化(@ミトコンドリア)を行わず、好気条件下でも、解糖系を利用してATPを得ます。この現象は、提唱者の名前から「ワールブルグ効果(ワーバーグ効果)」と呼ばれます。これは、好気条件下でグルコースを「醗酵」するようなもので、なぜこんな非効率な代謝を積極的に利用するのか?大変不思議です。

ワールブルグ効果への可能な説明の1つは、がん細胞は、すみずみまで張り巡らされた血管から十分なグルコースの供給を得られるので、非効率な代謝をしていても全く問題にならない、いうものです。しかし、血管が行き届いてない組織でもワールブルグ効果は観察される[1]ことから、この説明では不十分です。

もうひとつの説明は、ATP以外の代謝性要求を満たすためにワールブルグ効果がある、というものです。

がん細胞が増殖するには、ATPはもちろんですが、DNA、タンパク質を構成するアミノ酸、細胞膜を構成するリン脂質、脂肪酸もたくさん必要です(=代謝性要求)。例えば細胞膜を構成する重要な脂肪酸であるパルミテートを合成するには、7分子のATP、16の炭素骨格、28電子(NADPH14分子)が必要です。グルコース1分子は、酸化的リン酸化により36分子のATPを生み出しますが、これではATPだけが過剰になり、NADPHや炭素骨格が足りなくなってしまいます。そこで、そこで、解糖系を回し、そこから枝分かれしたペントースリン酸経路(グルコース1分子からATP30分子とNADPH2分子を生成)も利用することで、必要なNADPH等を得るのです。Palmitateと同様に、アミノ酸やヌクレオチドの合成においても、一見「非効率」な代謝を利用することで、がん細胞が自らの増殖/分裂に必要な炭素骨格やNADPHをバランスよく得ていると考えられます[2]。

興味深いことに、これらの代謝は緊縮応答ではなく、いわゆるがん遺伝子や、p53のようながん抑制遺伝子が、積極的にメタボロームを調節している結果であることが最新の研究で明らかになってきました。

例えば、増殖因子刺激で活性化するAkt/PI3Kシグナリングが解糖系を亢進させるという知見[3]や、チロシンキナーゼシグナルが解糖系の律速ステップを負に制御し、解糖系の中間体をペントースリン酸経路でのNADPH生成に利用させる知見[4,5]、反対に、がん抑制遺伝子として有名なp53がペントースリン酸経路を負に制御し、癌細胞の代謝性要求を満たす「増殖用代謝 (proliferative metabolism)」をシャットダウンしているといった知見[6,7]など、枚挙に暇がありません。

これらの知見は、がん遺伝子の研究のみならず、代謝物質やその中間体を含めたメタボローム研究を融合(マルチ・オミクス)させ、癌細胞の巧みな代謝調節、律速段階を追った成果であり、ワールブルグ効果の提唱から50年あまり、がん代謝研究の再興(“Re-generation”)ともいうべき時代に来ているのです。昨今、グリベック、イレッサをはじめとしてがんのチロシンキナーゼシグナルを阻害する分子標的抗がん剤が成果をあげていますが、ワールブルグ効果の研究により、癌細胞に特異的な代謝性要求を叩く分子標的治療が表れる日も近いのではないでしょうか。

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