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ABC's of Metabolomics

いまアツいメタボローム解析とは? -代謝フラックス解析⑧


こんにちは、B&Mの大賀です。木枯らしが吹く季節になりましたね。こちら鶴岡もここ数日は風が強く、冬が目の前に迫ったことを思い出させてくれます。

さて、2ヶ月にわたって最近のフラクソミクス研究を取り上げてきたこのシリーズも今回がラスト。最後に注目したいのは、ごく最近に発表された酵母育種に関する報告です。この研究では、代謝フラックス解析にメタボロミクス、そしてトランスクリプトミクスのデータも加えたマルチオミクスの試みがなされています。

グルコース(Glc)の替わりに、キシロースやアラビノース(Ara)といった五炭糖を資化できる酵母の育種が昔から行われています。しかし、ランダムスクリーニングにより優良株が得られた場合、「なぜ」そうなったのかを把握できなければ、更なる育種や培養条件の改良に発展させることができません。

この問題を解決するためには、ゲノム構造上の変化だけではなく、その結果として生じた遺伝子発現、そして代謝の変化を理解することが必要です。

Wisselinkらは、育種でAraからエタノールを産生できるようになった酵母株について、遺伝子発現と代謝のコントロールがどう変わったか調べました。①育種後の株(目的株)をGlcで培養した場合、②育種後の株(目的株)をAraで培養した場合、③Araを資化できない親株をGlcで培養した場合、の3パターンでフラックスモデルを構築すると、Glcの培養時には育種の前後で顕著な違いがなく、またその結果は増殖速度やバイオマス生産といったマクロな実験値と一致していたそうです。

一方、遺伝子発現量を調べてみると、ペントースリン酸経路(PPP)を含む代謝酵素の遺伝子発現は目的株で増加しており、これら遺伝子を含む染色体の一部が重複したと考えられました。

解糖系、TCAサイクル、それからPPPを含む糖中心代謝に注目すると、育種や糖源の違いによる遺伝子発現の変化は、PPPの後半と解糖系の下流という一部に集中していました。

また、メタボロームからは、3条件でアミノ酸や核酸、エネルギーチャージにほとんど差がないものの、Ara培養した目的株ではPPPの中間体が著しく蓄積することが明らかになりました。

以上の結果から、Ara資化能に最も関与が疑われるPPP後半の酵素遺伝子を破壊すると、やはりAra培養時の増殖低下が確認された、とのことです。

モデルと実験結果が一致する部分、またそうでない部分があり、比べて眺めると、局所的な変化が全体に大きな影響をもつことが見て取れます。鍵となる反応ステップは明らかになったものの、その影響が1~2割程度だったそうなので、トランスポーターやその他の因子がどの程度の影響を持つか明らかにすることが今後の課題でしょうか。

個人的には、ゲノム重複が(おそらく)あっても、また糖源が変わっても、増殖速度やバイオマス生産が一定に保たれていたという結果にも興味があります。

代謝の恒常性(ロバストネス)が近年の研究で明らかになりつつありますが、今回のような具体的なデータが増えていくことで、代謝全体の中でも特に安定な部分、逆にバッファーとして働く部分など、新たな役割が見えてくることに期待しています。

メタボロミクスの利用が一般的になるにつれて、今後は代謝フラックス解析でもマルチオミクスが普及していくのではないでしょうか。季節とは反対に「これからアツくなる」であろうこのテーマ。今後もしっかりカバーしていきたいと思います。

[1] Metabolome, transcriptome and metabolic flux analysis of arabinose fermentation by engineered Saccharomyces cerevisiae.
Metab Eng. , 2010
PubMed

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メタボロ太郎なう

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