果実の早期発育と代謝物質は、トマトの味と品質に大きく関与しています。果実の早期発育と代謝物質の制御メカニズムを明らかにするために、果実の早期発育と代謝物質が野生株と比較して大きく異なる変異株を単離してきていました。しかしながら、これらの変異株のゲノム上の変異部位の同定に多大な時間がかかっているために、なかなか研究が進んでいません。
本論文では、遺伝子発現と代謝物質量の包括的測定を行い、その結果に基づいて多変量解析、クラスタリングおよび遺伝子-代謝物質相関ネットワーク解析することによって、果実の早期発育と代謝物質制御における新規の遺伝子-代謝物質間の相関ネットワークを明らかにしています。
概要
開花後12日、20日、35日の果実のMesocarp(中果皮)およびLocular tissue(小室のある組織)のメタボローム解析を行った。
主成分分析を行なうと第1主成分の寄与率は41%、第2成分の寄与率は29%であった。第1主成分によって中果皮と小室のある組織の違いを明確にすることができ、第2主成分によって開花後の日数の違いを明確にすることができた。Self-organizing map (SOM)分析によって、まず中果皮と小室のある組織間の代謝物の違いが開花後の日数による代謝物の違いよりも大きいことが分かった。代謝物質-代謝物質間の相関解析を行い、果実の早期発育過程の変動において高い正の相関関係がある代謝物の組み合わせが明らかになった。
次に、メタボローム解析と同様のサンプルで、DNAマイクロアレイを用いたトラスクリプトーム解析を行なった。中果皮では開花後の日数の違いによって2倍以上あるいは2倍以下の基準で発現が異なる206遺伝子が検出され、一方、小室のある組織では435遺伝子が検出された。
遺伝子発現と代謝物質量の相関関係を調べると、32遺伝子と20代謝物質の間で37個の遺伝子-代謝物質間の相関関係が検出された。さらにPajek softwareを用いて、遺伝子-代謝物質間のネットワーク解析を行い視覚化した。
その結果、グルタミン、bZIP転写因子、MYB転写因子がひとつのグループを形成していて、果実の早期発育と代謝物質制御においてグルタミンとこれらの転写因子が密接に関係している可能性が示唆された。遺伝子-代謝物質間のネットワークの視覚化によりグルタミンと転写因子のグループ以外にもいくつかグループの形成が認められた。遺伝子-代謝物間のネットワークにおいて、代謝物コリンと40遺伝子から成る1つのグループについて、K-means法を用いることにより、さらに5つのグループに分けることができた。
結論
果実の早期発育と代謝物制御において、新規の遺伝子-代謝物質間のネットワークを複数明らかにした。
本論文では、統計解析を用いることによって、新規の遺伝子-代謝物質間のネットワークを明らかにしています。今後、生物学的研究によって本論文で提示したネットワークの妥当性を証明して欲しいと思います。そうすることによってはじめて、この論文の価値、すなわちメタボロームデータとトランスクリプトームデータを用いた統計解析の重要性が、評価できるようになります。