慶應義塾大学先端生命科学研究所(所長:冨田勝、弊社取締役兼務)が中心となって行った大腸菌のオーム解析の研究成果が、米科学誌「Science」2007年4月27日号に掲載されました。[論文へのリンク]
冨田らの研究グループはまず、4,288個ある大腸菌の遺伝子をひとつずつ欠失させた突然変異体を3,984種類作成。その中からエネルギー代謝にかかわる遺伝子を欠失した大腸菌を選出しました。また通常の菌体については、さまざまな異なる条件で生育させました。これらの大腸菌の細胞内物質を、メタボローム(代謝物質)、プロテオーム(タンパク質)、トランスクリプトーム (RNA)について、それぞれ網羅的な計測を行い、それらのデータを統合し、エネルギー代謝の各ステップにおける代謝流束(酵素反応の速度)をコンピュータで算出しました。
その結果、エネルギー代謝のような重要プロセスを担っている遺伝子が欠失していても、細胞の生存に影響がないだけでなく、細胞内の各種の物質量の変化にも影響が出ませんでした。また、生育条件を変化させた場合、RNAやタンパク質の量は大きく変化しましたが、代謝物質の量は有意には変動しませんでした。このように「大腸菌は状況に応じて様々な手段で代謝を安定に保っている」という『頑強性(Robustness)』を世界で初めて定量的に実証しました。
本研究において、メタボローム解析ではHMT社のCE-TOFMS技術および独自開発のソフトウェアが使用され、プロテオーム解析についても弊社研究員が行い、共著者として掲載されております。本研究成果は、HMT社の分析技術の優位性を世界に示したものです。今後とも、メタボローム解析を中心に、プロテオーム・トランスクリプトーム解析との連携も視野に入れ、研究開発を進めてまいります。