ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社は、慶應義塾大学、大阪大学、および理化学研究所と共同で、細菌の遺伝子発現制御に関わる新奇の酵素機能を発見しました。
今回の研究では、酵素タンパク質の機能探索にメタボロミクスとトランスクリプトミクスを組み合わせたマルチオミクススクリーニングを活用することで、これまで知られていなかったシグナル分子の代謝経路と、その生物学的な役割を解明することに成功しました。
高度好熱菌Thermus thermophilusHB8は、原始生命のモデル生物として世界中の研究で用いられています。しかし、ゲノム解析から発見された約2000個のタンパク質のうち、3分の1近くは細胞内での詳細な役割が未だ解明されていません。
今回研究対象となったNdx8 (TTHA1939) というタンパク質は、加水分解酵素であることが予想されていましたが、その基質分子と生物学的機能は同定されていませんでした。 Ndx8の遺伝子破壊株について行われたDNAマイクロアレイの解析結果からは、低栄養条件下で細胞の増殖を抑制する遺伝子発現の制御が起こることが示唆されました。また、メタボロミクスによるNdx8の基質スクリーニングを行ったところ、細胞の中にppGppという転写制御シグナル分子が蓄積することを発見しました。さらに、in vitroでの活性測定実験や、多重遺伝子破壊実験による検証を行った結果、Ndx8がppGppの加水分解活性を持ち、細胞内で栄養環境を感じ取るセンサーの一部として働いていることが明らかになりました。
本研究のアプローチを他の酵素タンパク質の機能解析にも応用することで、従来の実験方法では発見できなかった機能や基質分子の発見が期待されます。
研究成果はアメリカ生化学分子生物学会誌The Journal of Biological Chemistry電子版で公開されました。
Degradation of ppGpp by nudix pyrophosphatase modulates the transition of growth phase in the bacterium thermus thermophilus.
J Biol Chem. 284(23):15549-56, 2009.
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