腸内常在菌が大脳代謝系に影響を与えていることを明らかに-腸内環境と行動・脳神経系疾病との関連性解明に新たな突破口-

協同乳業、理化学研究所、東海大学医学部、HMT社の共同研究

研究開発型バイオベンチャーのヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社※1(本社・山形県鶴岡市、代表取締役社長・菅野 隆二、以下HMT)は、協同乳業株式会社※2(本社・東京都中央区、社長:山崎 直昭)松本光晴主任研究員らとの共同研究により、腸内常在菌※3が大脳の代謝系に大きな影響を与えていることを代謝産物レベルで明らかにしました。

本研究は(独)農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出基礎的研究推進事業」の平成21年度課題「健康寿命伸長のための腸内ポリアミン濃度コントロール食品の開発」(研究代表者:協同乳業株式会社 松本光晴主任研究員)により行われ、「フロンティアズ・イン・システムズ・ニューロサイエンス(Frontiers in Systems Neuroscience)」で4月23日に公開されました。

研究背景

腸と脳は、共通の情報伝達物質と受容体を介し双方向的なネットワーク「腸脳相関」を 形成しており、腸管側因子として腸内常在菌が注目され始めている

研究目的

腸内常在菌が大脳に与える影響を明らかにする

研究方法

同腹仔のマウスを無菌マウスと通常菌叢マウス※4にグループ分けし、7週齢で両グループの大脳皮質をCE-TOFMS※5によりメタボローム解析※6を行った

結果
腸内常在菌が大脳代謝系に与える影響

大脳皮質から196の代謝産物が検出されました。無菌マウスの方が通常菌叢マウスより濃度が高かった成分は23成分検出され、この中には、行動と関連深い神経伝達物質ドーパミンを初めとして、統合失調症、多発硬化症やアルツハイマーとの関連性が示されている代謝物質が含まれていました(図)。さらにエネルギー代謝に関連する成分も含まれており、大脳のエネルギー消費にも腸内常在菌が影響していました。すなわち、腸内常在菌が宿主の思考や行動にも影響している可能性が示唆されました。

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本研究結果は、腸内常在菌が大脳の代謝系に大きな影響を与えていることを示しており、脳の健康、疾病、発達および衰弱、さらにヒトを含めたほ乳類の学習、記憶および行動の研究において重要な基礎的知見となります。

 

プロファイル

※1 ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社について
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(HMT)は、CE-MS法の技術をもとに2003年7月に設立され、メタボロミクスのリーディングカンパニーです。主な事業内容はCE-TOF MSを利用したメタボローム受託解析で、メタボローム解析技術を用いたバイオマーカー探索のほか、医薬、機能性食品、発酵プロセスの最適化などの分野で実績を上げています。今後は環境、エネルギー、化学などの分野も視野に入れ、幅広い分野での貢献を目指しています。https://humanmetabolome.com/jpn/

※2 協同乳業株式会社について
協同乳業株式会社は1953年に創業、「メイトー」ブランドで牛乳、ヨーグルト、プリン、アイスクリーム等の製造・販売を行っている総合乳業メーカーです。「ホームランバー」や「カスタードプリン」など数々のロングセラー商品を生みだしてきました。
最近では、ビフィズス菌「LKM512」によるマウスの寿命伸長効果を発表し、プロバイオティクスの新規機能の発見として新聞・TV等で大きくとりあげられ話題になりました。また、今まで未知の領域だった腸内常在菌の代謝産物、特にポリアミンに焦点をあて、腸内環境と健康・疾病の関連性の解明を目指し、独自の切り口で研究を進めています。http://www.lkm512.com/

※3 腸内常在菌
ヒトの大腸内には1,000種類の腸内細菌が存在しており、一人あたり100種類以上、100兆個が棲息しています。健康への影響が非常に大きく、腸の疾病以外にも、免疫系の疾患、肥満や寿命にも関与していることが明らかになり、近年研究が盛んに行われています。

※4 通常菌叢マウス
マウスを無菌環境で生育させ、4週目に通常環境で飼育しているマウスの糞便懸濁液を経口投与し、通常菌叢を定着させたマウス。無菌マウスと比較することで腸内常在菌の影響を直接的に調べることができます。

※5 CE-TOFMS
キャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis; CE)と飛行時間型質量分析計(Time-of-Flight Mass Spectrometer; TOFMS)を組み合わせた分析装置であるCE-TOFMSは、高分離能と高分解能、高感度を併せ持ち、イオン性化合物の分析に威力を発揮します。細胞内の代謝物はほとんどがイオン性化合物であるため、生命科学研究に適しています。1つの細胞には数千種類もの代謝物質が存在するため、その解析の効率化は大きな課題となっており、CE-TOFMSには、迅速な代謝物質測定実現の期待が寄せられています。

※6メタボローム解析
細胞や生体内に存在するアミノ酸や糖、脂質などの代謝物質を網羅的に測定し、生命現象を総合的に理解しようとする研究分野。

※このニュースについてのお問い合わせ
営業・マーケティング部 井元
TEL: 03-3551-2180

このニュースは下記のメディアなどで報道されました。
・山形新聞 2013年4月26日付28面

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