背景
肥満は世界レベルで増加し、それに伴い糖尿病、高血圧、脂質異常症、循環器疾患、非アルコール性脂肪性肝炎等の生活習慣病は増加しています。
肥満になると、生理現象の一つとして脂肪酸の血中レベルが上がり、脂肪組織だけでなく非脂肪組織にも蓄積されるようになります。脂肪組織で蓄積できる能力を超えた量の脂肪酸が血中に存在するためです。
本来起こるべきではない非脂肪組織への脂肪酸の蓄積は、生体内の生理機能に様々な悪い影響(インスリン抵抗性、アディポサイトカインの蓄積、炎症反応等)を及ぼし、生活習慣病の発症につながると考えられており、脂肪酸による細胞死がこれら生体内破綻の一因である可能性が示唆されています。またこの細胞死は、カスパーゼによって引き起こされるアポトーシスであることが知られています。
概要
今回紹介する論文では、代謝の観点からアポトーシスを活性化させるカスパーゼ2の機能の一端を明らかにしています[1]。
本論文の著者のグループでは、アフリカツメガエルの卵抽出物を室温で培養すると、カスパーゼ2依存的にアポトーシスが誘導され、さらにこの誘導は代謝と関連性があることを明らかにしてきました[2,3]。しかしながら、このアポトーシスがどのような代謝変化によって引き起こされるかに関して、詳細なメカニズムは分かっていませんでした。
本論文では、アフリカツメガエルの卵抽出物を室温で培養させて、アポトーシスを誘導させた状態で詳細な代謝変化を調べています。
その結果、カスペース2依存的なアポトーシスには、アミノ基転移酵素反応の活性化が必要であること、NADHの蓄積に伴う脂肪酸合成の活性化及び脂肪酸の分解の抑制が必要であることが分かりました。
阻害剤を用いてアミノ基転移酵素反応を抑制すると、上記の代謝変動およびカスパーゼ2の活性化は抑制されるが、さらに飽和脂肪酸を添加するとカスパーゼ2が活性化することが明らかになりました。
この結果は、アポトーシス誘導の経路において、アミノ基転移反応の下流に、脂肪酸蓄積が位置していることを示しています。
その他のサポートデータを追加し、飽和脂肪酸の蓄積によりカスパーゼ2依存的にアポトーシスが引き起こされることが解明されました。
まとめ
本論文の結果から、カスパーゼ2が飽和脂肪酸蓄積によるアポトーシス誘導に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
この成果は、カスパーゼ2の活性化を阻害することで飽和脂肪酸蓄積によるアポトーシスが抑えられ、この反応が生活習慣病の原因であるならばカスパーゼ2は治療のターゲットとして応用できる可能性を秘めていると考えられます。
また本論文を代謝的な観点から詳細に読むと、アミノ基転移反応によるアスパラギン酸、アラニンの変動、TCAサイクル代謝中間体の変動、NADHの蓄積、脂肪酸合成の活性化、脂肪酸分解の抑制、飽和脂肪酸の蓄積など、多数の代謝経路の調節がアポトーシス誘導に関与していることが分かります。アポトーシスの誘導と代謝には一見密接な関係にはないように思われますが、実際は様々な代謝調節を介して引き起こされる生理現象であると言えます。
今後、メタボロミクスが様々な分野のバイオ研究に利用されるようになると、他の多くの生理現象も実は代謝調節と密接な関連があったということが明らかになってくると考えられます。